トランプ大統領はどのような思想をよりどころに対東アジア戦略の舵を定めていくのか。それは「アメリカ・ファースト」主義に他ならない。アメリカの国益をすべてに優先させ、自らの強固な支持基盤である貧しい白人層の利益を守り抜いていく。それゆえ、「アメリカ・ファースト」主義を掲げる政権のイデオローグ、スティーブン・バノン前首席戦略官は「対中経済戦争こそ最優先課題であり、北のことなど座興にすぎない」と言い切ったのである。

 北朝鮮が北米大陸に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発・実験さえ凍結することを約束すればいい―。「アメリカ・ファースト」の思想は、対北政策にも顔をのぞかせるかもしれない。そうなれば、日本だけが北の中距離ミサイルの射程に収まって取り残されてしまう。安倍首相は、6日の日米首脳会談で、かかる事態だけは何としても避けなければならない。

 緊密な同盟国同士であっても、それぞれの利害がぴたりと一致することなどありえない。それだけに日本側は、対トランプ会談で機先を制し、攻勢に出るべきだろう。アメリカ政府は、2008年に北朝鮮を「テロ支援国家」のリストから外してしまった。「テロ支援国家」のくびきを解かれた金正恩政権は、クアラルンプールで金正男氏暗殺に手を染め、イランとひそかに新鋭ミサイルを共同開発し、ヒズボラとハマスに武器を売却している。指定解除がいかなる結果をもたらしたか、その誤りを米側にはっきりと伝えるべきだろう。
2017年9月、ニューヨークでトランプ大統領の発言に対する北朝鮮の立場を表明する李容浩外相(共同)
2017年9月、ニューヨークでトランプ大統領の発言に対する北朝鮮の立場を表明する李容浩外相(共同)
 いまや北朝鮮は、6千人規模のサイバー戦士を擁して、サイバー攻撃能力を急速に高めている。それを裏付けるように、バングラデシュの中央銀行にサイバー攻撃を仕掛け、8000万ドルを奪っている。マシンガンを持った覆面の銀行強盗などいまや過去の風景になりつつある。こうした事態が繰り返されれば、国連安保理の制裁決議や米中の独自制裁も効力を減じてしまう。北朝鮮は核・ミサイルの開発資金をさらにサイバー空間から調達することになるだろう。

 安倍首相は、あらゆる機会を捉えてトランプ大統領にひざ詰めで談判し、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定させ、サイバー攻撃へ備えを日米連携で一層強化するべきだ。アメリカのトランプ政権は、東アジアの戦略地図を根底から塗り替え、ソウルと東京を火の海にしかねない先制攻撃より前に、多くのなすべきことがあることを真摯(しんし)に説いてもらいたい。