経済封鎖となれば早晩、北朝鮮は経済的に窒息する。最近になって韓国政府が警告するように、大勢の北朝鮮住民がその犠牲になる恐れが色濃い。90年代中盤に続く大飢饉の再発だ。

 2度目の大飢饉を金正恩政権が果たして乗り越えられるかどうか、大いに疑問である。だが、北朝鮮は、前回の大飢饉では国民の10人に1人を飢え死にさせながら、独裁体制を維持して核ミサイル開発を進めた「成功体験」に浸る。

 それに加えて、金正恩は習近平による経済制裁や軍事的圧迫の脅しにまったく動じない。この点については、韓国の駐中国大使による興味深い証言がある。今年9月に起きた6回目の北朝鮮核実験直前の話だ。

 中国政府は「北朝鮮の核実験を阻止した。今後もできないだろう」と米韓両国に自信満々に語っていた(2017年10月17日、朝鮮日報「北朝鮮危機:『核実験阻止する』と自信見せていた中国」)。おそらく北朝鮮に「制裁強化」の脅しをかけたのだろう。ところが、金正恩はそんな習近平をあざ笑い、過去最大規模の「水爆実験」で応じた。

 金正恩が習近平を恐れないのには明快な理由がある。一般には知られていないが、金正恩は昨年3月に朝鮮人民軍の戦略軍司令部に驚くべき命令を下した。「北京に核ミサイルの照準を合わせろ」というものだ。極秘命令とはいえ、筆者の耳に入るくらいだから、習近平がそれを知らないはずがない。半ば公然たる中国への挑戦状である。
弾道ミサイル「火星12」を見る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(手前)。朝鮮中央通信が5月に配信した(朝鮮通信=共同)
弾道ミサイル「火星12」を見る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(手前)。朝鮮中央通信が5月に配信した(朝鮮通信=共同)
 金正恩の愛用句に「日本は百年の敵、中国は千年の敵」というのがある。歴史上、中国は朝鮮半島で「宗主国」として振る舞い続けてきた。それに対する民族的反感が表出したものである。その中国を北朝鮮の核ミサイルが射程に収めた。だが、北朝鮮と中国は表面上、「同盟国」の関係だ。その首都である北京に核攻撃の「自動発射態勢」を取るのは尋常でない。

 ともあれ、核ミサイルの「民族の宝剣」を手にした金正恩は、習近平だけが相手なら「ビビらない」。習近平も金正恩を相手にうかつに手出しできない。金正恩は今般の中国共産党大会に祝電を送ったが、中身は素っ気ないものだった。「恭順の意」を表したものでは決してない。米中首脳会談を意識した危機管理次元での形式的で戦術的な「祝意」に過ぎない。金正恩が恐れるのは、まだ「宝剣」の圏外にあるアメリカだけだ。そのトランプが今、尻込みする習近平の背中を押して経済封鎖に追い込もうとしている。

 米中首脳会談の結果を見極めれば、金正恩は乾坤一擲(けんこんいってき)、年内中に再びICBMの発射実験を強行することになるだろう。