2015年、中央銀行にとって試練の年


近藤駿介(評論家、コラムニスト)

 2015年の金融市場は、長期金利の低下、原油価格の下落、ドル高、株価横這いという形でのスタートとなりました。

 2015年の金融市場の最大の関心事は米国の利上げ時期にあることは間違いありません。しかし、FRBによる利上げ時期が最大関心事になり、市場がそれを織り込みに行く中で長期金利は低下傾向を強めるという捻れ現象が起きていることは興味深いことです。

終値が1万7千円以下まで下がった日経平均を示す株価ボード=1月6日午後、大阪市中央区(沢野貴信撮影)
 個人的には2015年は日米欧の中央銀行にとって試練の年になるような気がしています。

 まず、米国。市場のコンセンサスは2015年夏場からの利上げというものですが、個人的にはFRBの利上げはもっと先になるような気がしています。

 それは、成長率こそ年率5%と11年ぶりの伸びを示しているものの、インフレ率は前年比+1.3%と、半年前の+2.1%をピークに明らかに低下傾向を示し、2%というインフレターゲットから遠ざかって来ているからです。

 FRBが利上げに動くためには、少なくともディスインフレ懸念が払拭されることが必要です。インフレ懸念が全くなく、ディスインフレやデフレ懸念が残る中で利上げに踏み切るということは、実質金利(=名目金利-インフレ率)の上昇を通して、米国経済に悪影響を及ぼすからです。

 インフレターゲットに届かない中でFRBが0金利政策から脱出するとしたら、市場金利の上昇に追随する形で政策金利を引き上げる以外にありません。市場金利に追随する形であれば、政策金利の上昇が実質金利の上昇を招かないからです。

 FRBは1994年にインフレ懸念が顕在化する前に、当時のグリーンスパンFRB議長が「先制攻撃(Preemptive Strike)」と称してインフレに先行する形で利上げに踏み切った実績を持っています。しかし、潜在的なインフレリスクが高まってきていた1994年当時と、5%成長を達成してもディスインフレ懸念が払拭されない現在とは大きく状況は異なっており、イエレン議長はとても「Preemptive Strike」を決行できる状況にはありません。

 そうした中で、原油価格の下落などもあり、頼みの市場金利も低下傾向を示して来ています。米国の2年国債の利回りは、10年債利回りが年末にかけて1ヶ月で0.1%近く低下する中、FRBの夏場利上げを織り込む形で年末には0.73%と、1か月前から0.2%上昇して来ていました。しかし、年明けには世界的な金利低下の影響もあり、0.67%へと低下して来ており、FRBが市場金利を追認する形での利上げに踏み切り難い状況になっています。

 つまり、FRBは、経済指標の面からも、市場金利の面でも、利上げに踏み切り難い状況に陥りつつあるということです。金融市場が利上げを見込んでいる夏場に向けてFRBが利上げに踏み切れない状況が鮮明になって行くとしたら、市場はどのような反応を示すのでしょうか。

 グリーンスパンFRB元議長が市場の予想を裏切る形で1994年から利上げに踏みきったことで債券市場は混乱しましたが、それを尻目に株価はグリーンスパン元議長の有名な「根拠なき熱狂」発言を引出すまで上昇し続けました。

 今回もFRBが利上げに踏み切れないという想定外の状況に陥った場合、株式市場は「根拠なき熱狂」を続けるのでしょうか。

 FRBの利上げの陰に隠れた格好になっていますが、個人的にはECBの量的緩和にも注目しています。

 FRBは打ち止め、日銀は拡大、ECBはこれからと、現在日米欧の金融緩和のステージは明確に異なっており、市場はこうしたステージの違いを前提に動いています。金融緩和のステージの違いを金融市場は織り込んでいますが、もう一つの日米欧の金融政策の相違点は織り込んでいないように思えます。それは、準備預金に関するものです。

 FRBも日銀も、法的準備預金には付利をしていませんが、それを上回る超過準備預金にはそれぞれ0.25%、0.1%の付利をしています。これに対して、ECBは、法定準備預金には一定の金利を付利していますが、超過準備預金には付利をするどころかマイナス金利を採用しています。

 超過準備預金に付利をしている日米両国による量的緩和は、結果的に供給されたマネーのほとんどが中央銀行にもどり、準備預金総額が法定準備預金の18~20倍に達するという異常な状態を作り上げました。一方では、こうした異常な準備預金残高は、中央銀行の付利によって、供給された資金が中央銀行に戻るという実質的不胎化効果も生み、これがインフレ抑制効果を発揮していたとも言えるものです。

 しかし、ECBは超過準備預金に付利しないばかりか、マイナス金利を適用しますから、日米のように中央銀行が供給した資金が中央銀行に還流し、実質的不胎化効果を発揮することは日米ほど期待できません。つまり、ECBが供給する資金は、中央銀行に戻ることなく世界の金融市場を彷徨い続ける可能性があるということです。

 このECBによって供給された、ECBに還流し難いマネーはどこに流れるのでしょうか。ECBによる大規模な量的緩和は、FRBや日銀が行って来た「中央銀行に還流する可能性の高い量的緩和」とは異なっていることを市場はまだ認識していないように思います。

 FRBが市場の想定通りに夏場に利上げを実施できるのか、ECBが「中央銀行に還流する可能性の低い資金」、換言すれば「バブルを生みかねない資金」をコントロールできるのか。2015年の金融市場は、これまで中央銀行も投資家も経験したことのない状況に足を踏み入れることになります。

 このように金融政策が非常に難しくなるなか、日本は金融の専門家ではなく、行政官である日銀総裁に金融政策を委ね、まさに「神のご加護を」といった状況です。

 日本のマスコミや専門家達は年末から盛んに「根拠なき安心感」を振り撒いています。確かに、ECBによって「バブルを生みかねない資金」が供給される可能性もありますから、「根拠なき熱狂」の再来があるかもしれません。しかし、結果はともかく、2015年の金融市場は彼らの主張ほどは簡単ではないということは肝に銘じておいた方がよさそうです。
(ブログ「近藤駿介 In My Opinion」より)

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