2017年11月06日 16:08 公開

BBCパノラマ 「パラダイス文書」取材班

タックスヘイブン(租税回避地)に関する資料が新たに大量に流出し、世界の権力者や大富豪たちが人目に触れずに多額の資産をタックスヘイブンに置いている実態が明らかになった。「パラダイス文書」と名付けられた資料にはエリザベス英女王の個人資産のうち1000万ポンド(約15億円)がオフショア投資に向けられていることなどが含まれる。

5日に公表された資料では、ウィルバー・ロス米商務長官と関係の深い海運会社がロシアのウラジーミル・プーチン大統領の側近や親族が実質オーナーの石油会社と取引していることが明らかになった。

1340万件に上る今回の資料は主に、オフショア投資関連サービスで知られる1社から流出した。昨年の「パナマ文書」同様、南ドイツ新聞が入手し、BBCや英紙ガーディアンを含む世界67カ国の約100報道機関が参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に協力を求めていた。BBCパノラマの取材班が資料の調査に当たった。

5日公表分は、資料に含まれる何百人もの人々や会社の税や資産運用に関する情報のうち公にされる部分のごく一部に過ぎない。それには英国と関わりの深い人物も含まれている。

資料に含まれる取引の大部分に関しては違法行為は認められていない。

このほか5日に明らかになった内容は以下の通り。

  • カナダのジャスティン・トルドー首相に近く、与党自由党の資金集めを担当するスティーブン・ブロンフマン氏が関係するオフショア投資によって、カナダが何百万ドルに上る税収を失っていた可能性がある。トルドー首相はタックスヘイブンをなくすと、選挙活動で訴えていた。
  • 英保守党の元副党首で主要献金者のアッシュクロフト卿が自らのオフショア投資の管理で、規定に従っていなかった可能性がある。さらに他の資料からは、アッシュクロフト卿が貴族院議員だった時期にも、節税目的で住所をタックスヘイブンのベリーズに登録したままだったと示されている。当時、同氏は外国居住の状態を解消したと考えられていた。
  • 実業家ファルハド・モシリ氏が英サッカークラブチームのエバートンFCの所有権5割近くを取得した際に原資としたアーセナルFC株式は、同チームの30.4%を所有する実業家アリシェル・ウスマノフ氏の「贈り物」という形の資金提供で取得された可能性がある。このため、エバートンFC株式を所有しているのはウスマノフ氏なのではないかと、疑惑が生じている。モシリ氏は資金は贈与されたものではないと疑惑を強く否定している。

エリザベス女王の資金運用

「パラダイス文書」では、エリザベス女王の個人資産のうち約1000万ポンドがオフショア投資に向けられていることが示されている。

資金は、エリザベス女王の個人資産5億ポンドの投資を管理するランカスター公領によって、ケイマン諸島とバミューダ諸島のファンドに投資されている。

これは法律に反しておらず、脱税行為を示唆するものでもないが、国王がオフショア投資を行うべきなのか議論を呼ぶ可能性もある。

ファンドには、貧困層を搾取していると批判された分割払いの小売業「ブライトハウス」や、酒類販売のチェーン「スレッシャーズ」への少額投資が含まれていた。スレッシャーズはその後、経営が破綻。未納付の税金は1750万ポンドに上り、6000人近くが職を失った。

ランカスター公領は、ファンドの投資方針には関わっておらず、女王も個別の投資について把握していたとはみられないと説明した。

ランカスター公領は過去に、女王は自分の資産について「強い関心」があり、その女王の「評判に悪影響を及ぼす可能性がある行為や省略について常に配慮している」と説明していた。

米トランプ政権に新たな火種?

1990年代当時、実業家だったドナルド・トランプ米大統領の破産回避を助けた投資家のロス氏は、トランプ氏によって商務長官に任命された。

資料では、ロス商務長官が、ロシアのエネルギー企業向けの石油・ガス運送で毎年何百万ドルの収入を得ている海運会社への間接的な所有権を保有し続けていることが明らかになった。エネルギー企業の出資者には、経済制裁の対象となっているプーチン大統領の娘婿や側近2人が含まれている。

このため、トランプ氏のロシアとのつながりをめぐり新たな疑問が浮上している。昨年の大統領選でロシアがトランプ候補を勝たせようと介入したとの疑惑が、トランプ政権の足かせとなってきた。トランプ大統領は一連の疑惑を「フェイク・ニュース」と呼び、否定している。

資料はどこから流出したのか

資料の大半は、バミューダ諸島に拠点を置きオフショア投資で重要な顧客を抱える法律事務所「アップルビー」から流出した。アップルビーは税率がゼロか低率のオフショア投資の仕組みを、顧客に提供している。

「パラダイス文書」にはこのほか、主にカリブ海地域の法人登記に関する資料が含まれる。

資料を入手した南ドイツ新聞は、情報源を明らかにしていない。

ICIJに参加するメディア各社は、オフショア投資に関する情報漏洩(ろうえい)が違法行為の露呈につながった経験がしばしばあるため、今回の調査も公益に寄与するという姿勢だ。

資料流出を受けてアップルビーは、「我々や我々の顧客に間違った行為があった証拠がなかったことに満足している」と述べ、「我々は違法行為を許容しない」と付け加えた。

オフショア投資とは?

簡単に言えば、企業や個人が居住する国の規制を逃れて低税率の恩恵を受けられる場所にお金や資産、利益を持っていくことだ。

そのような場所は一般的にタックスヘイブンと呼ばれ、業界では、より正式にオフショア金融センター(OFC)と呼ばれている。

英国はこの分野に深く関わっている。英国の海外領や王室属領の多くがOFCだということだけでなく、ロンドンの金融街「シティ・オブ・ロンドン」にはオフショア投資業界で働く弁護士や会計士、銀行家の多くが拠点を置いている。

巨額の資産を持つ富豪が関わる分野でもある。「Capital Without Borders: Wealth Managers and the One Percent(仮訳:国境なき資本:ウェルス・マネジャーと1パーセント)」の著者、ブルック・ハリングトン氏は、オフショア投資は人口の1%にあたる富裕層のものではなく、0.001パーセントの富裕層のためにあると指摘する。資産が50万ドルあったとしても、オフショア投資にかかる手数料を払うのには十分ではないという。

我々への影響――気にするべきことなのか

まずはその規模だ。ボストンコンサルティンググループによると、10兆ドルがオフショア投資に向けられている。これは英国と日本、フランスの国内総生産(GDP)を全て足し合わせた額にほぼ相当する。10兆ドルという額は保守的な見積もりに基づいている。

オフショア投資を批判する人々は、違法行為を生み出しやすい秘密主義や不平等性が主な問題だと指摘する。また、これまでオフショア投資を抑制しようとする各国政府の対応はのろく、効果を上げてこなかったという。

ハリングトン氏は、もし富裕層が課税逃れをしているのであれば、代償を払うのは貧困層だと話す。「政府が機能するため必要な最低限の額があり、富裕層や企業から得られなかった分は我々の懐から徴取される」。

英下院の決算委員会を委員長を務める野党・労働党のメグ・ヒリヤー議員はBBCパノラマに対し、「オフショアで起きていることを我々は知る必要がある。オフショア投資が秘密にされていなければ、このようなことの一部は起きなかった。(中略)透明性が必要で、日の光が当たるようにしなくてはならない」と語った。

オフショア投資を擁護する意見

OFCがもし存在しなかったら、各国政府の課税への抑制がきかなくなるとする主張がある。お金はそこに貯め込まれるのではなく、世界中で使われる資金になるという。

BBCパノラマが番組のために取材した当時、バミューダの財務相を務めていたボブ・リチャーズ氏は、各国の税徴取は自分の責任ではなく、各国政府が解決すべき問題だと述べた。

BBCパノラマは今回リークされた資料に大きく関わる王室属領のマン島のハワード・クエール首席大臣にも取材。クエール氏はリチャーズ氏同様、地域では規制が行き届き、国際的な金融取引に関する報告義務を完全に守っており、タックスヘイブンだとみられること自体が正しくないと語った。

アップルビーは過去に、OFCが「腐敗した政府からの盾となることで、犯罪や汚職あるいは迫害の犠牲となった人々を守っている」と述べている。

(英語記事 Paradise Papers: Tax haven secrets of ultra-rich exposed