現在までのEPA候補者の受け入れ国はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国。2008年から2016年度までに2777人を受け入れ、542人が資格を取得した。取材した特養は2010年から現在に至るまでEPA候補者の受け入れを行っている。同施設が受け入れに成功している背景には以下のようなポイントがあった。

・外国人介護職の技術指導を統括するリーダー職を配置している
・施設内で外部講師を招き、日本語を学ぶ機会を提供している
・施設近くに宿舎があり、職場から通いやすい環境を整えている
・メンタル面でのサポートは地域で暮らす同じ国の出身者に依頼している
・同じ県内に住む外国人介護職員同士の交流会なども開催している

 実際に同施設の施設長は、取材時「とにかく急いで人材不足を解消したいという短絡的な考えで外国人介護職を受け入れたのでは成功はしない」と繰り返し話していた。

 また、現在同施設で働くインドネシア人の男性は「日本の介護施設で質の高い介護を学び、将来は自国で介護施設を建てたい」と夢を語ってくれた。彼の発言に対し、施設長は「その夢が叶えられるよう支援していきたい」とこたえていた。

 日本の国家資格である介護福祉士の資格取得を目標に掲げ、介護施設で就労・研修に励むEPA候補者と外国人技能実習生とではそのモチベーションに温度差があることは否定できない。これまで外国人技能実習生の多くは出稼ぎ目的で来日し、「介護」に対する意識が低い外国人も少なくないとの指摘もある。

 しかしながら、受け入れに成功している上記の特養の取り組みと心構えは、これから外国人技能実習生を受け入れようとしている施設にとっては指針となりうるのではないか。

 EPA候補者の斡旋等の業務を行う公益社団法人国際厚生事業団(以下、事業団)による調査(2016年)では、施設がEPA候補者を受け入れた目的として「人材不足解消のため」との回答と並び、「職場活性化のため」という回答が上位だった。

 さらに、EPA候補者受け入れを「良かった」と評価している点については、「教えることで日本人職員自らも基本を見直すことができた」「介護記録の記入を容易にする工夫など業務の標準化が進んだ」といった意見があった。後者の「標準化」とは、提供される介護サービスのばらつきを抑えるため、介助方法を業務手順として統一化することである。
特別養護老人ホームで介護福祉士として働くフィリピン人=愛知県武豊町
特別養護老人ホームで介護福祉士として働くフィリピン人=愛知県武豊町
 私は現在東京都福祉サービス第三者評価の評価者として評価業務(事業所の組織経営や提供されているサービスの質を評価する)を行っている。この評価の項目の一つに「標準化」があるが、都内においても標準化が十分に整備されている施設はわずかであるといっても言い過ぎではない。利用者に対する介助方法の指導は「私がやっているのを見て覚えてね」というOJT(職場内訓練)が主流であるところが、今もなお少なくない。

 「Aさんが着替えの介助をしてくれるときは痛みを感じることはないのに、なぜかBさんが介助をしてくれるときは腕が痛くなるのよね」と利用者が不満を漏らす事態が起きる。人が行う行為なのでいたしかない部分はあるが、利用者にとってはAさんが介助をしてもBさんが介助をしても、同じように痛みを感じないのが望ましい。