その後、遺族はいっさい匿名になってマスコミの前で名前と顔を出して話すことはないのですが、僕はそのことに反対なのです。7月26日、僕が行く前に遺族の方が5時半くらいにいらしてて、入倉かおる園長に絶対に名前を出さないで下さいとお願いをしたらしいんです。そこで園長と家族会の大月和真会長が津久井警察署に電話をしたんですね。

 警察署は最初断ったようです。被害者の方は実名報道ですよ、ということで断られた。でも遺族の方が園長と会長に懇願して、もう一度津久井署に電話をしました。それで警察の方は本庁とも協議したんでしょう。「今回だけは障害者なので特例として匿名を認めます」ということで、匿名になったというんです。

 しかも遺族だけじゃなくて負傷者の家族までいつのまにか匿名になってしまった。家族で実名を出して取材に応じたのは僕ともう一人だけでした。

 僕はそれが納得できなくて、警察が「障害者だから匿名にします」というのは、差別じゃないかと思うんですね。僕は障害者という言葉自体も嫌いなんですけれど、健常の方も障害を持っている方もそれぞれ個性、特性があるんです。うちの一矢も一人の人間なんです。

 この事件で「障害者だから匿名を認める」となると、犠牲になった方は名前が出ないわけですよ。19人の中には津久井やまゆり園で何十年も暮らしていた人もいたのに、そこにいたことにならなくなってしまう。彼とか彼女の人生は何だったのかなと思うと、植松にも殺されて家族にもまた殺されてしまったという気がするんです。

 敢えてきつい言い方をさせていただくと、名前を出したくないという家族の方々が、被害を受けた当人でなくて、家族が差別されるから名前を出したくない。自分の保身で出さないんだと、僕はそう思っています。
障害者施設「津久井やまゆり園」正門前には献花台が設置され、施設関係者や地域住民らが犠牲者らに思いをはせた=2017年5月26日、神奈川県相模原市
障害者施設「津久井やまゆり園」正門前には献花台が設置され、施設関係者や地域住民らが犠牲者らに思いをはせた=2017年5月26日、神奈川県相模原市
 亡くなった人はこういう人生を歩んできたんだよ、大変なんだって知ってもらうことが、この事件を風化させないことだと思っているんですが、今はそうなっていない。ただ、最終的に決めるのはご家族だから、心が癒えて話してくれるのを待つしかない。僕がそれに対して「実名にしなさい」とは言えません。

 匿名にする理由は、障害者が差別されてきた、偏見がなくなっていないからです。だから多くの家族は子どもを隠しているんです。私の知っている人ですが、1日だけテレビで顔を出したのですが、故郷の方から電話がかかってきたそうです。自分の子が障害者とわかったら、親戚、近所みんなから言われて恥ずかしい思いをする。だから、それまで知らせてなかったようなんです。そういう差別が続いてきたことが、今回の事件で犠牲者が匿名になった理由です。