その話に入る前に、ここでこの間、植松被告とやり取りした手紙の内容を紹介しておこう。そうしたやり取りを経て、この接見に至っているわけで、実際、彼の手紙には興味深い記述も少なくないからだ。


【8月2日付、植松被告の獄中からの手紙】
 同封してもらいました「ドキュメント死刑囚」を拝読させていただきました。宮﨑勤に関して執行までに12年かかっているわけですが、1食300円として食費だけで12年間で432万円の血税が奪われております。意思疎通がとれない者を認めることが、彼らのような胸クソの悪い化け者を世に生み出す原因の一つだと考えております。
 第二次大戦前のドイツはひどい貧困に苦しんでおり貧富の差がユダヤ人を抹消することにつながったと思いますが、心ある人間も殺す優生思想と私の主張はまるで違います。赤ん坊も老人も含め全ての日本人に一人800万円の借金があります。戦争で人間が殺し合う前に、まず第一に心失者を抹殺するべきです。とはいえ、1千兆円の借金も返済できる金額ではなく、戦争をすることでしか帳消しにできないのかもしれません。
 ゴミ屋敷に暮らす者は周囲の迷惑を考えずにゴミを宝と主張します。客観的思考を破棄することで自身を正当化させております。新聞のコピーも同封して貰いまして誠にありがとうございました。人生の多くを費やした者を無駄とされ憤るお気持ちはとてもよく分かります。ですが、遺族や障害者協議会など関係者に対して「現実逃避障害」と診断させていただきます。(以下略)

 冒頭の『ドキュメント死刑囚』云々は拙著を送ってあげたことへの返事だが、執行までに12年というのは植松被告の勘違いで、12年は私が宮﨑死刑囚と接した年月だ。実際には逮捕から執行までは20年近く費やしている。私が拙著を送ったのは、死刑囚の現実について彼に知っておいてもらったほうが今後のためだという思いからだった。でもそれに対して、死刑囚をも早く執行しないと税金の無駄だと主張したのには驚いた。植松被告は自分もこのままでは死刑囚になるかもしれないという思いがあまりないのか、それともそれをわかったうえで早期執行をと言っているのだろうか。死刑執行を延ばすのは税金の無駄使いだという主張はこれまでにもあったけれど、植松被告がそれを主張するのは意味が異なる。


【8月9日付、植松被告からの手紙】
 先日は『創』9月号を差し入れていただきまして誠にありがとうございました。多くの利権を壊す私の考えは世間に出ることは無いと半ば諦めておりましたので『創』を読んだ時は手が震えてしまいました。死と向き合い、魂を燃やされている篠田先生、並びに創出版の皆様に心の底から脱帽致しました。
 この度は篠田先生に折り入って御願いを申し上げたいのですが『創』10月号をセブンイレブン様、及び各コンビニのレジ横に置いて頂くことはできませんでしょうか。
 大変恐縮ではございますが、読書ばなれが進む日本で本を販売されることはとても困難と思われます。加えましては中国やアメリカ合衆国、世界に向けて翻訳された7項目の提案に賛否を集計できましたら、形だけの選挙よりも実りある答えがだせるのではないかと考えております。
 例の無い提案に多大なお手数をおかけしているのですが、一度ご検討いただけますことを切に願っております。せん越ではありますが、改めまして龍のイラストを描かせていただいております。また篠田先生に鑑査して貰えましたらとても嬉しく想います。
 なにとぞ宜しく御願い申し上げます。

 この手紙で驚いたのは「私の考えは…」というくだりだ。自分の考えが世に受け入れられ難いことを認識していることを示していたからだ。自分についてやや客観的に見る目も彼は持っているようだ。それをどの程度持っているかは、彼が精神的障害なのかそうでないのか考えるうえでひとつの判断材料になるように思う。