【8月15日付、植松被告からの手紙】
 お手紙を書いていただきまして誠にありがとうございます。度重ねて手紙を出してしまい申し訳ございませんでした。
 鯉は自分のイメージで描かせていただきました。今描いている龍は「闇金ウシジマくん」の滑皮さんを参考にしています。
 差し入れて貰いました報告書を読みましたが、ここが違うという箇所はありませんでした。6、7、8月は新聞を読ませていただいております。
 それにしても送検時の表情はゾッとする思いです。走る車に人波が突撃しても、笑顔をみせるべきではなかったと反省しております。

 鯉と龍は、彼が描いているイラストだ。差し入れた報告書というのは、昨年秋に出された厚労省の検討チームの発表した「中間とりまとめ」のことだ。この報告書では、植松被告が昨年、措置入院後に退院して事件を起こすまでの経過が詳細に追跡されている。その過程で事件を未然に防ぐことはできなかったのかというのが検討課題だったわけだ。犯行を予告してから実行に至る何カ月かの彼の行動を検証し、未然に防ぐためには何が可能だったか考えることは重要なのだが、その前提として報告書の記載が正しいかどうか本人に確かめたのだ。

 植松被告は自分の考えていることを自分なりに整理した獄中ノートをその後送ってきた。彼は「7項目の主張」なるものを様々なマスコミに送っていたのだが、それをさらにまとめて「新日本秩序」なる冊子にし、世に問おうと考えたのだった。冊子の末尾には、それぞれの項目についての賛否を問うアンケートがつけられていた。

 植松被告はそれを冊子として出版し、書店やコンビニで販売することを考えたのだが、現時点で相模原殺傷事件の被告である彼の主張をまとめたものをそのまま出版流通に乗せるのは簡単なことではない。それよりも事件後の出頭した時点からでよいから、今日まで彼がどう行動し、何を体験したか手記を書いてほしいと頼んだ。接見でも改めてそう依頼すると、彼はいささか意外な言葉を口にした。

 「できれば時間を無駄にしたくないんです」

 「安楽死」を含む7項目の主張を世に問うことが急務で、それ以外のことは時間を無駄にすることになるというのだった。いったい彼は何を急いでいるのか。あるいは自分の裁判がいずれ始まり、このままだと死刑判決が出される可能性が高いことをどの程度認識し、それについてどう考えているのか。

 植松被告の手紙を最初に見た時、まず驚いたのは、事件当時と変わらぬ主張を繰り返していたことだ。あれだけの事件を起こして報道され、世の中に自分に対する指弾の空気が横溢していることに全くひるむ様子が窺えなかった。例えば2001年、小学校に押し入って児童を次々と殺傷した付属池田小事件の宅間守死刑囚(既に執行)も、裁判中に被害者を冒涜するような言辞を吐いていたが、それは植松被告の場合と事情が違う。宅間死刑囚の場合は、最初から自分は死ぬつもりで、どうせなら世の中に一矢報いて死にたい。そのために「エリートの卵」が通う学校の子どもたちを標的にした。社会を憎悪し、それに復讐して死ぬことを決意して事件を起こした。それゆえ謝罪や反省は彼にとってありえないことだった。