モデル西山茉希「13年間の奴隷契約」に通じるヤクザな慣習

『片岡亮』

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片岡亮(ジャーナリスト)

 公正取引委員会が、芸能タレントやスポーツ選手などの所属契約について、今年8月から有識者会議「人材と競争政策に関する検討会」で議論が始まり、既に3回目となる。タレントの移籍などについて独占禁止法に反する疑いが出ているためだ。芸能界では所属事務所から独立することは基本的にタブーであり、今年2月には宗教団体「幸福の科学」への出家騒動で事務所との契約を終了させた女優、清水富美加が、事務所を辞める際に「過去の月給は5万円だった」などと待遇への不満を暴露し、これに反論する事務所側と対立した。それ以降、清水が表舞台で活動する姿をみかけることはほとんどない。

 解散騒動が注目を浴びた国民的アイドルグループSMAPも、問題の本質はグループの解散ではなく、一部メンバーの「独立」だった。事務所の経営者と折り合いが悪かった辣腕マネジャーが定年退職を前に独立の動きを見せ、そこに一部のメンバーが追従しようとしたが、結果はテレビ番組で5人そろって謝罪をさせられるという異様な決着となった。会社を辞めようとしただけで不祥事を起こしたような扱いを受けたのは一般の目からすれば、明らかに異様である。

ライブイベント「ワールド・ハピネス」にゲスト出演したのん
 ほかにも最近では、人気女優だった能年玲奈が独立をしようとした途端、一部メディアに「洗脳されている」とのゴシップ記事が出て「変人」扱いされ、独立後の再出発では本名での活動ができなくなり、「のん」への改名を余儀なくされた。6月には、トップモデルの西山茉希が契約解除をめぐって所属事務所と対立していることが表面化したが、案の定、その後の露出は激減した。

 芸能界では「売り出してくれた事務所を裏切ってはいけない」という観念が固定し、タレントはいわば事務所の「所有物」のようになっている。主要な仕事先のテレビ局をはじめとする大手メディアが事務所と一体になっているから、実際に事務所とトラブルになれば、「業界から干される」ということも起こり得る。まるで恐怖政治のような世界だが、そもそも日本の芸能界は暴力団が取り仕切っていた歴史もあり、ヤクザな世界に通じる慣習がいまだはびこっているのである。

 そこを見かねて公取委が動き出したというわけだが、是正というよりまだ勉強会に過ぎず、その姿勢は決して前向きには見えない。今後の状況を見て何らかの新ルール作りに着手する可能性はあるだろうが、問われるのはその実行力だ。

 ある芸能プロのマネジャーは、タレントとの「奴隷契約」といわれるアンフェアな関係について「表向きは合法だから問題ない。弁護士を入れてガッチリそこは抑えてある」と言った。この芸能プロでは、タレントとマネジメント契約する際に書面で交わす雇用条件については2年ごとに見直し、更新することになっている。タレントに不満があれば更新時の3カ月前に契約解除の申し入れができるとされ、労働基準法で定められる3年以内の契約期間内にも違反してはいない。
ボクシングでも起こる「飼い殺し」

 しかし、実際には2年ごとにタレントが契約の更新を毎度、見直すことができるかといえば、まず難しい。事務所を辞めれば他の事務所へ移籍するか、独立して自分で事務所を立ち上げるしかなくなるが、移籍の場合、芸能プロの大半が互いに引き抜き合戦にならないよう「暗黙の了解」があるから、円満移籍以外での引き受けはまずしたがらない。

 元の事務所は、タレントが辞めても得をすることはないから円満に他社へ送り出すケースはごくまれであり、結局は受け入れ先がなかなか見つからないという事態に陥る。そうなるとタレントが自分で事務所を立ち上げるしかなくなるわけだが、独立の場合は仕事先が元の事務所に気を遣って付き合いを控える状況が生まれてしまう。つまりは契約上、いくら健全に見えても状況的には移籍や独立を許されないというのが業界の慣習になっているのである。

2017年2月、主戦場の団体「パンクラス」に対して
専属選手契約の解除を求めた女子格闘家の中井りん
 これは何も芸能界に限った話ではない。プロボクシングの世界でも、ボクサーが事実上の「奴隷契約」を強いられているというのが実情だ。選手が所属ジムを移籍しようと思っても、所属先と受け入れ先が多額の移籍金で合意に達しない限り、移籍は実現しない。だから、合意にこぎつけるまでの間、選手は試合から遠ざかり、事実上の「飼い殺し状態」が続くのである。

 選手寿命の短いスポーツでは、若いボクサーがブランクを作ることを恐れ、たとえファイトマネーなどに不満があっても所属ジムの会長に渋々従っているケースが非常に多い。これもルール上は選手とジム間の契約にマネジャーが仲介するよう定められているのだが、大半のマネジャーはそのジム側に雇われていて公平性などないに等しい。

 このジム側にとって都合の良いシステムは業界全体が守ろうとするため、いつまでたっても改善されることはない。アメリカだと奴隷制度の黒歴史から「モハメド・アリ法」なる法律で奴隷契約は違法とされているから、人気ボクサーになれば報酬は興行収入の大半をもらえるような契約もあったりするのだが、日本では選手がどんなに出世しても、所属ジム会長が決めた条件は動かない。

 つまり、契約よりずっと手ごわいのは古い慣習であり、公取委が契約書を読みながら関係者に形式的なヒアリングをしたところで、問題の本質は浮かび上がってこない。ただ、こんな村社会の前時代的なシステムが業界の発展を阻んでいるのも事実である。過去、映画界では大手5社による引き抜き防止協定、いわゆる「五社協定」で俳優の移籍を防いだことが広く知られるが、結果として映画業界の凋落(ちょうらく)を招いてしまった。一部の利益を守るために「自由なビジネス」を許さないという仕組みは、長い目で見れば自らの首を絞める一因になるのではないだろうか。

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