しかし、実際には2年ごとにタレントが契約の更新を毎度、見直すことができるかといえば、まず難しい。事務所を辞めれば他の事務所へ移籍するか、独立して自分で事務所を立ち上げるしかなくなるが、移籍の場合、芸能プロの大半が互いに引き抜き合戦にならないよう「暗黙の了解」があるから、円満移籍以外での引き受けはまずしたがらない。

 元の事務所は、タレントが辞めても得をすることはないから円満に他社へ送り出すケースはごくまれであり、結局は受け入れ先がなかなか見つからないという事態に陥る。そうなるとタレントが自分で事務所を立ち上げるしかなくなるわけだが、独立の場合は仕事先が元の事務所に気を遣って付き合いを控える状況が生まれてしまう。つまりは契約上、いくら健全に見えても状況的には移籍や独立を許されないというのが業界の慣習になっているのである。

2017年2月、主戦場の団体「パンクラス」に対して
専属選手契約の解除を求めた女子格闘家の中井りん
 これは何も芸能界に限った話ではない。プロボクシングの世界でも、ボクサーが事実上の「奴隷契約」を強いられているというのが実情だ。選手が所属ジムを移籍しようと思っても、所属先と受け入れ先が多額の移籍金で合意に達しない限り、移籍は実現しない。だから、合意にこぎつけるまでの間、選手は試合から遠ざかり、事実上の「飼い殺し状態」が続くのである。

 選手寿命の短いスポーツでは、若いボクサーがブランクを作ることを恐れ、たとえファイトマネーなどに不満があっても所属ジムの会長に渋々従っているケースが非常に多い。これもルール上は選手とジム間の契約にマネジャーが仲介するよう定められているのだが、大半のマネジャーはそのジム側に雇われていて公平性などないに等しい。

 このジム側にとって都合の良いシステムは業界全体が守ろうとするため、いつまでたっても改善されることはない。アメリカだと奴隷制度の黒歴史から「モハメド・アリ法」なる法律で奴隷契約は違法とされているから、人気ボクサーになれば報酬は興行収入の大半をもらえるような契約もあったりするのだが、日本では選手がどんなに出世しても、所属ジム会長が決めた条件は動かない。

 つまり、契約よりずっと手ごわいのは古い慣習であり、公取委が契約書を読みながら関係者に形式的なヒアリングをしたところで、問題の本質は浮かび上がってこない。ただ、こんな村社会の前時代的なシステムが業界の発展を阻んでいるのも事実である。過去、映画界では大手5社による引き抜き防止協定、いわゆる「五社協定」で俳優の移籍を防いだことが広く知られるが、結果として映画業界の凋落(ちょうらく)を招いてしまった。一部の利益を守るために「自由なビジネス」を許さないという仕組みは、長い目で見れば自らの首を絞める一因になるのではないだろうか。