芸能プロダクションは多額の投資をし、タレントを数年かけて育成し、その後売れた段階で回収するというハイリスクハイリターンなビジネスです。数年かけてやっと利益が出るようになったタレントが「あっちの事務所の方が条件も良いし、良い仕事も来るので移籍します」と言われても、簡単に応じることはできません。

 裁判例の中にも「芸能プロダクションは、初期投資を行ってアイドルを媒体に露出させ、これにより人気を上昇させてチケットやグッズの売り上げを伸ばし、そこから投資を回収するビジネスモデルを有している」と明言したものがあります。

 このように「商品であるタレントに他の事務所に移籍されては困る」というのは、ほとんどの芸能プロダクションに共通することですから、業界内でもタレントの引き抜きはタブーとされています。仮にタレントが無断で移籍や独立をすれば、各事務所はテレビ局や制作会社に対して、「当該タレントを使用するな」と圧力をかけ、実際、テレビ局側が当該タレントをキャスティングするならば、事務所の他のタレントを引き上げるというような圧力をかけます。

 最近はインターネットの存在で若干変わりましたが、依然としてメディア=テレビであり、視聴率を取るためには有名タレントを出演させるという構造の下においては、テレビ局と芸能プロダクションとの関係は強いものがあります。

 テレビ局にとっても、大手プロダクションともめるという不利益と比較した場合「それでもなお当該タレントに出演を依頼する」とはなりにくく、結局、タレントは干されることになります。
(iStock)
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  そしてこのテレビ局の判断は、経営判断を前提としているので、タレントも裁判などで争うにはハードルが高く、そのような裁判事例はほとんどありません。このような状況下で、タレントが事務所の許可なく移籍や独立をすることはおよそ不可能です。

 以上が、タレントが移籍や独立を試みたときに予想される展開となります。

 そもそも企業と従業員との間を規律するのが労働基準法や労働契約法などの労働法規です。それに対して、事業者間の関係を規律するのが独占禁止法や下請け法です。所管している官庁についても労働法規については厚生労働省、独占禁止法については公正取引委員会です。この中で、タレントについては、労働者なのか独立の事業者なのか明確に区別できず、法律の空白地帯になっているといえます。