そして、契約後この優越的地位を利用して、一方的なギャラの引き下げ、過重労働の強制、移籍・独立の制限などを行った場合には、優越的地位を濫用した行為といえます。

 また、独立や移籍を試みようとした所属タレントについて、テレビ局をはじめとする各種メディアに対して「当該タレントをキャスティングするのであれば、当社所属のタレントはその番組には出演させることはできない」と圧力を加えることで、当該タレントの出演は事実上著しく困難になります。

 このような、独立しようとするタレントに関してメディアに不当な圧力をかける行為についても、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に該当し得る行為といえるでしょう。優越的地位の濫用と認定された場合には、公正取引委員会から芸能プロダクションに対して排除措置命令がなされ課徴金の支払いを求められます。

 複数の芸能プロダクションや、芸能プロダクションで組織する業界団体が共同でタレントの移籍を制限するような場合には、独占禁止法が規制する「共同の取引拒絶」に該当するといえます。共同の取引拒絶とは、複数の事業者や業界団体が共同して、特定の事業者との取引を制限することをいい、公正取引委員会が今回引用している5社協定においても問題となった行為類型です。これは「集団的ボイコット」と呼ばれることがあります。

 共同の取引拒絶の典型例として、タレントが移籍しようとするときに、かつて所属していた芸能プロダクションが、他の芸能プロダクションに対して「そのタレントとは契約するな」と働きかけ、他の芸能プロダクションが追従する行為などが挙げられます。

 また、テレビ局をも巻き込んで「あのタレントを出演させるな」という場合にはテレビ局も共同の取引拒絶をしている主体といえます。
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 公正取引委員会が共同して取引を拒絶していると認定するためには、明示的に協定書や合意書が作成されることは不要であり、暗黙の認容でも共同行為に該当するとした裁判例が存在します。

 実際、複数の芸能プロダクションやテレビ局で「特定のタレントと契約しない」「あのタレントは出演させない」という内容の協定書や合意書が作成されることはまずありません。電話などの証拠が残らない方法により意思形成されることになるでしょうし、場合によっては他の芸能プロダクションが追従することにより暗黙の意思形成がされることもあるでしょう。