しかし、黙示であったとしても、各社の行動の一致性や、事前の連絡があったかなどにより、共同の取引拒絶があったと認定されるケースも十分に考えられます。確かに、芸能プロダクション側がタレントに対して優位に立ちたいというニーズは十分に理解できます。社長やマネジャーからしてみれば、一癖も二癖もあるタレントに仕事の時間を守らせ、礼儀作法を教え、業界のルールを教えることは簡単ではない場合があります。未成年のタレントには飲酒喫煙の禁止を厳守させ、ドラッグから身を守らせることは重要かつ頭を悩ませるところです。

 私自身、芸能プロダクション側の相談を受けることも少なくなく、事務所側の代理人として数多くの事件を経験し、事務所に損害を与えたタレントに対して訴訟提起した経験もあることから、事務所側の苦労はものすごく理解できます。

 そして、「旧事務所を円満に辞めなかったタレントは芸能界で干される」という事務所優位な状態は、タレントに恐怖と不安を与え、どの事務所にとってもタレントをコントロールする材料になることから、この状態を利用したい気持ちも十分に理解できます。
(iStock)
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 しかし、複数の芸能プロダクションや業界団体が、このような共同の取引拒絶に該当する行為を実行することは独占禁止法に違反する行為であり、排除措置命令や課徴金支払いの対象になります。さらに、複数の芸能プロダクションが共同の取引拒絶をした結果、「取引分野における競争が制限されている場合」には不当な取引制限にも該当します。

 不当な取引制限に該当すると、行為者に対して5年以下の懲役または500万円以下の罰金、その雇用主(多くの場合芸能プロダクションとしての法人)には5億円以下の罰金という独占禁止法上最も重い刑罰が科されることになります。

 これまで、芸能プロダクションとタレントとの関係について、独占禁止法の視点から検討されるケースはあまりありませんでした。昨今の有名タレントグループの解散や独立、移籍を発端に話題にはあがるようになりましたが、その根底となる芸能界のルールは今に始まった話ではありません。

 公正取引委員会には、「従来の判断枠組みでは法律上の問題はありませんでした」ということで検討を終えるのではなく、芸能界の実態に踏み込んだ調査と、芸能界の実態に即した判断がなされることを期待しています。