今回の公正取引委員会による芸能事務所への介入は、旧態依然とした日本の芸能界特有のシステムを見直し、時代に即した健全な業界へと生まれ変わらせる大きなチャンスであることは事実です。ただし、メスを入れる以上は、責任を持って、これまでの因習に取って代わる代案を出すべきで、それはタレント個人の人権を守ると同時に業界全体を活性化するものでなければなりません。

 いわゆるお役所仕事にありがちな、メスを入れるだけ入れておいて、野暮な正論を押しつけておしまい、というのでは業界が萎縮してしまうでしょう。日本の芸能界には、アジア各国への輸出をはじめとする国際競争力のあるエンターテイメント産業として、今後も発展する潜在能力があります。

 タレントの育成も含めて、業界に関わる事業者すべてがフルに力を発揮できるような、新しいビジネスモデルが見えてくるレベルまで議論を尽くすべきです。それは決して容易な作業ではありません。

2016年7月に所属事務所から独立した女優、のん(小山理絵撮影)
2016年7月に所属事務所から独立した女優、のん(小山理絵撮影)
 単純に欧米の契約社会で生まれたドライなエージェント制度を、そのまま日本に輸入しても、うまくいかない気がします。日本の芸能界が独自に発展してきた背景には、良くも悪くも職人の徒弟制度のようなウェットな側面があります。また場合によっては学齢期の子供を預かり、社会人として育てる教育機関としての側面もあります。

 これまでの日本の芸能界は、いわば「仁」「義」「礼」といった日本人らしい美徳を基本にして、その伝統的な倫理観によって成り立ってきた社会と言えるかもしれません。それを対等で合理的な契約関係へと生まれ変わらせることが、今、求められているのです。

 タレント側に育ててくれた事務所に対する「義」の心を求めるのなら、事務所側には、広く世のため人のために巣立つ子供を見送る親心「仁」の精神が不可欠でしょう。こういった美しい日本の心を失うことなく、今の時代に合った新しい芸能界のあり方を策定するのは、相当な難問だと言えそうです。

 このあたりをどう処理するのか、有識者会議の腕の見せ所だと思いますので、注意深く見守っていきたいと思います。