西尾克洋(相撲ライター)

 日馬富士の騒動について、事態が混迷を極めている。日馬富士が貴ノ岩を殴ったという事実以外の情報が錯綜(さくそう)し、新情報が小出しに追加されている状況だ。事実が明らかになっていない中で、憶測を元にした議論がメディア上で活発になされ、世論が翻弄(ほんろう)されている。

 横綱という立場にありながら、後輩力士を殴った日馬富士。情報をつかみながら、素早い対応を怠った相撲協会。彼らの行いは言い逃れができないものだ。かつて不祥事が続いた頃、盛んに叫ばれた「品格」はそこにはない。これはただの暴行事件ではなく、暴行をトリガーにして、相撲界の悪しき体質が露呈された事件だといえるだろう。

 だが、この混乱は果たして品格なき日馬富士と相撲協会だけが招いたものだろうか。

 戦犯探しをすることが問題解決につながるとはかぎらないし、安全圏から悪い誰かを責めることは憂さ晴らしをする行為につながりやすいので気を付けねばならない。ただ、今回ばかりは日馬富士の騒動をかき乱した、2人の登場人物について触れねばならない。

 騒動の原因を産み出したのが日馬富士で、適切な処理を怠ることで騒動を大きくしたのが相撲協会なら、不確かな情報を拡散し、事態を混乱させているのは間違いなくマスコミである。

 夜の羽田空港で日馬富士を大勢で取り囲み、朝になればホテルの前を占拠してこれまでの経緯を報じる。有名人たちが番組内で不確かな情報を元に無責任なコメントを発し、今度はそれを元にネット記事が作成される。話題が朝から晩まで日馬富士で埋まるのは、彼らがこうして自ら話題を創り上げているからである。果たしてこのような報道姿勢が問題解決につながるのだろうか。

 さらにその情報の中には、マスコミによって印象操作されているものまで存在している。

 例えば、一連の報道でよく使われている貴ノ岩の写真の一つに、浴衣姿で顔がアザだらけのものがある。誰がどう見ても、これは日馬富士の暴行によってできたものだと思うはずだ。事実私もそうだった。
十両に昇進し、会見の冒頭、貴乃花親方(右)と握手を交わし笑顔を見せる貴ノ岩(左)=2012年5月23日、東京・中野区の貴乃花部屋(大橋純人撮影)
十両に昇進し、会見の冒頭、貴乃花親方(右)と握手を交わし笑顔を見せる貴ノ岩(左)=2012年5月23日、東京・中野区の貴乃花部屋(大橋純人撮影)
 だが、実はこの写真は今回の事件と一切関係ない。貴ノ岩が数年前に昇進したときに撮られたものだ。アザだらけの貴ノ岩が貴乃花親方とガッチリ握手をしている写真も存在している。少なくともフジテレビ系情報番組「グッディ」と「めざましテレビ」でこの写真が使われていることまでは確認できている。

 特にこの写真は有名なものではない。ネット検索しても、ヒットする順位はかなり低い。だから、偶然この写真を使ってしまったという言い分は通用しない。つまり貴ノ岩が被害者である印象を植え付けるために、マスコミが意図的にこの写真を選んだということである。

 問題を解決する気がないだけでなく、問題を意図的に操作して伝える彼らは、果たして何がしたいのだろうか。そこに報じる立場としての自覚はあるのだろうか。そして、彼らが日馬富士に求めている「品格」が、彼ら自身にあると言えるだろうか。