小林信也(作家、スポーツライター)

 日馬富士問題への対応で、貴乃花親方の立場が日に日に悪くなっている。警察に被害届けを出し、「取り下げる気はない」と強硬な姿勢を崩さない。これについてはいろいろ見解はあるだろうが、公に責められるものではない。

 一方で、巡業部長でありながら、巡業中の出来事に関して協会への報告が不十分、一部内容は警察への届けと食い違う。貴ノ岩のケガの程度についても、実際以上の重症と主張し、診断書の内容も疑わしいところがあるといった報道が出ている。その詳細について、貴乃花親方は一切、口をつぐんでいる。事件の発覚以来、貴乃花親方は沈黙を守り、警察の捜査にすべて委ねる形になっている。

 そんな中、日本相撲協会は、巡業部長である貴乃花親方を今場所後の巡業から外し、代役を立てる方向だと報じられた。いまの貴乃花親方に、他の部屋に所属する力士を任せるわけにいかないという判断だ。それは、管理責任者としての資質を否定され、協会公務からの追放を示唆するものとも受け取れる。
貴乃花親方(中井誠撮影)
貴乃花親方(中井誠撮影)
 
 「いずれは理事長になる」、引退直後は協会関係者もファンも多くがそう考えていた。引退後も貴乃花は、「角界のプリンス」であり続けるはずだった。それがなぜ、このような孤立を生んだのだろう。このままでは、来年早々、理事選後に予定される次期理事長選挙でも、過半数の支持を得るのは難しい情勢だ。さらに言えば、孤立を深める貴乃花親方がこのまま日本相撲協会の一員として活動し続けてくれるのか、そんな心配さえ広がる。

 貴乃花親方は、日頃から「相撲という日本の伝統文化を改めて身近な人気分野にしたい」「老若男女、とくに子供がもっと日頃から親しむ環境を作りたい」といった主旨の夢を語り続けている。協会内で主張しているのも、その夢を前提にしたビジョンだ。

 ところが、日本相撲協会の大勢は、そのような広い視野に立った深淵なビジョンではなく、当面の本場所や巡業の運営、日々の相撲部屋の経営に目が向けられている。それでなくても不祥事が続き、長年維持してきた財団法人としての既得権や恩恵が揺るぎかねない事態が続いている。権益や経営権をできる限り相撲界の外部に流失させず、相撲界の中に保持し続けたい、そのことに意識とエネルギーが注がれているように、貴乃花親方には感じられ、苛立ちが募っているように見える。

 理想を追い、根本的な改革を目指す貴乃花親方は、自らを正しいと信じ、「これを成し遂げなければ相撲の未来はない」とさえ、危機感と使命感を募らせているように見える。そのことに異論はない。