「編集権」についてとやかく言うつもりはなかった


(瀧誠四郎撮影)
 私が朝日新聞での連載「新聞ななめ読み」を始めたのは、朝日だけでなく、いろんな新聞の比較をすることがそもそもの狙いでした。月に1回、言ってみれば新聞時評みたいなものですよね。「朝日新聞の記事は分かりにくい」と随分批判もしてきましたが、それに対して担当部局のデスクから抗議が来たりすると、それも紹介しつつ、反論も書いたりして、新聞記者との双方向性を持つというやり方でやってきました。

 朝日以外にも読売や産経の話も書いたりしたことはあったんですが、ある日突然、掲載できないという話になったんです。もちろん、新聞社には編集権がありますから、最終的に掲載する、しないを判断するのは、それぞれの新聞社が決める編集権ですよね。それについて著者が「載せないのはおかしい」とか、そういうことを言う立場ではないと思うんですよ。

 朝日は編集権を行使したに過ぎないわけですから、「それはどうぞ」と。もちろん、それについてはとやかく言いませんとも。ただし、これまで「何を書いてもいいよ」と言われてたのが、突然そうじゃなくなるんだから信頼関係が失われたも同然ですよね。

 だから、私は「もう書きませんよ」と言っただけなんです。それは、朝日新聞と私との間の、要するに発注者と著者との間の話でしょ。それはどこの新聞社だってやりとりはあるわけだし、出版社だって雑誌社だってあるわけですから。それについて、私は誰にも言うつもりはなかった。あくまで会社との話でもあるから、もう終わった話だし、もう連載はきれいさっぱり終わったんだもんね、と思っていました。

 そしたら、突然週刊誌から次々に問い合わせがあり、まあ朝日の社内で、週刊誌に言った人がいるわけですよね。週刊文春も週刊新潮も「朝日の人から聞いたんですけど」ってきましたから。で、こんな騒ぎになっちゃった。私の中では終わってた話ですし、それがこんな形になってしまった。

 当時、コラムの不掲載を決めたのは「上層部で…」という言い方を朝日の担当者もしていました。現場は掲載したいと思っているのに「上層部がうんと言いません」という言い方でした。こちらとしては「上層部って誰ですか?」と聞こうとも思わなかった。さっきも言ったように編集権を行使されただけですから。別に関心もなかったので、確認もしなかった。ただ、それだけのことです。

 朝日の第三者委員会では木村伊量前社長が不掲載を決めたという結論が最終的に出ましたよね。本人もそれを受け入れるみたいな。渋々認めるような不思議な展開でしたけど。でも、本当は会社の中で、きちんと何があったのかということを調べて検証する、という自浄作用が働かなければいけないんだけど、朝日にはそれができなかった。そのことは残念だけど、よく言えば朝日は第三者委員会ってものを設置して、事実が解明されたわけですよね。考えてみれば、新聞記者だってサラリーマンなんですから、自分が勤める会社の社長だった人を問い詰めて確認するってやっぱりなかなかできない。そういう意味では、第三者委員会で一連の経緯が明らかになったことは良い事だと思う。

 そこでいろんな膿といいますか、角度をつけすぎた記事であるとか、あるいは過剰な使命感から記事が歪められてしまったみたいな指摘を受けて、「朝日の病根」っていう言い方は言いすぎかもしれませんけど、そういうものを明らかにして紙面に出して説明したことは、これまでにない前向きなことではないか。そして、さらに言えば、1月5日の朝日社長会見でも「編集」と「経営」をきちんと分離すると明言しました。これはマスメディアにとって永遠の課題ですよね。産経新聞だって編集権は独立しているでしょうけど、でも会社の危機になれば、そのときの社長が何を言うか分からないというのは有り得るわけでしょ。いや、きっとありますよね。あまり人のことを言っていられないわけですよね。

 そういう意味でも、「経営」と「編集」の分離、あるいはどうしても経営にかかわる時には第三者を入れてきちんとオープンにするんだ、という姿勢は画期的なことだと思う。他の新聞社はできてないでしょ。他のテレビ局だってできてないと思うんですね。他にも訂正のコーナーを常設するというのは、これも画期的なことですよね。これまでどの新聞社も、なるべく訂正は載せたくない。たとえ載せても目立たないようにする。一面トップの大きな記事でも小さく訂正を載せるというのは、産経新聞でもあったと思いますけど、一連の問題を受けての朝日の対応は画期的なことではないかなと思う。

 もちろん、本当にそうなるかどうかは分からない。これからやるっていうんだったら、じゃあ、こちらはそれを監視し批評をするという役割で「連載を再開しましょう」と決めました。1月5日の夜に申し上げたんですが、各社からは「コメントください、ください」とずっと追いかけ回されてました(笑)。