橋爪大三郎(社会学者・東京工業大学名誉教授)

 2020年の東京オリンピック開催に向けて、「ハラル対応」を進める動きがある。これを機に、日本のいっそうの国際化がはかられ、世界の多様性に対して人びとの目が開かれるなら結構なことである。 
アラブ首長国連邦(UAE)ドバイから浅草寺を訪れたイスラム教徒の観光客 =2014年7月、東京都台東区
アラブ首長国連邦(UAE)ドバイから浅草寺を訪れたイスラム教徒の観光客=2014年7月、東京都台東区
 とはいえ、「ハラル」は、まだまだ日本人にはなじみが薄い。まず、基礎的なことがらから復習しておきたい。
                    
 世界には「食物規制」をもつ宗教がある。一神教では、ユダヤ教とイスラム教の食物規制が有名である。一方、キリスト教は、原則として食物規制をもたない。

 食物規制は、聖典で決まっている。ユダヤ教は、モーセ五書(モーセの律法)で定められている。イスラム教は、クルアーン(コーラン)、およびスンナ(伝承)で定められている。どちらも、神の命令であり、信徒がそれを守ることは神に対する義務である。よって、宗教法となる。宗教法は、食物規制の他に安息日や服装規定、日常生活のきまりを含む。それを研究するのは、ラビや法学者である。

 ユダヤ教純正食品はコシャーといい、イスラム教純正食品はハラル食品という。その根拠は、それぞれの宗教の聖典(タナハ=旧約聖書と、クルアーン)に記された規定による。「豚を食べない」など両者は似通っているが、べつべつのルールだ。

 コシャーもハラルも、「食べてよい、いけない」の区別があるのは、動物(の肉)である。植物には規定はない。加えてイスラム教は、アルコールも禁じている。

 ムスリム(イスラム教の信徒)は、イスラム法の食物規定に従って、まず正しい食材を用意する。正しい仕方で解体処理された牛や羊や鶏などの食肉を、ムスリムのマーケットで購入する。穀類や、そのほかの食材、調味料も、ムスリムのマーケットで調達する。そして持ち帰り、自宅で調理する。これが基本だ。
                    
 では、外食する場合はどうするのか。

 ムスリムは、ムスリムが営業するレストランに入るのが、基本だと思う。中国には大勢のムスリム(数千万人)がいる。漢民族は豚を好んで食べるが、ムスリムは豚を食べない。代わりに羊や鶏を食べる。北京にもたくさんの中国語でイスラム教徒の食堂を意味する「清真食堂」や「穆斯林餐庁(イスラム・レストラン)」が看板を掲げている。入ってみると、新疆ウィグル(中華人民共和国西部の自治区。イスラム教徒が多く居住する)出身と思われる人びとが働いており、中国風のイスラム料理を提供している。ムスリムなら安心して食べられるだろう。