2017年12月04日 10:30 公開

ジョン・ニルソン=ライト博士、ケンブリッジ大学および英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)

冷戦中、核戦略の専門家たちは、抑止力と国の安全を保障するために「どれだけあれば十分なのか」を、しばしば問題にしていた。平壌で戦略を策定している担当者たちも今、まさに同じ自問自答をしているかもしれない。

北朝鮮が29日に劇的に発射した「火星15」長距離ミサイルは、ワシントンやニューヨークを攻撃することも可能だとみるアナリストもいるからだ。

2006年以降、核実験を6回繰り返し、2017年だけで20回以上もミサイルを発射してきた北朝鮮は、その軍事力の進歩によって、米国の攻撃に対する事実上の核抑止力を確保するところまで達したのだろうか。

この疑問は、単なる学術的な興味にとどまらない。

北朝鮮は常に、自分たちの核兵器など大量破壊兵器はどれも純粋に、防衛目的のものだと主張してきた。それを前提として、もし北朝鮮政府が自分たちは安全だと安心できるなら、金正恩は強い立場から米国と交渉し、政治的・経済的制裁の緩和を要求できるようになる。

米国相手にそのような交渉が可能になれば金氏は、軍の近代化と持続可能な経済成長という二つの戦略上の優先課題を共に実現できる。そしてそれができれば、国民に対して自分の指導者としての地位の正当性を強調することができる。

さらに発射実験を

ミサイル発射後の北朝鮮の正式発表によると、最新の実験は長期間におよぶ技術開発の到達点という位置づけだ。金正恩の言葉を借りるなら、「ついに国の核武力の完成という歴史的大業、ロケット大国建設の偉業が実現した」大事な日だったのだ。

今回の実験は、北朝鮮の技術力がますます高度なものになりつつあることの確認だった。そしておそらく、今後も継続する実験の序曲だった。

米国と同盟各国は、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)に核弾頭を載せて、一定の精度で米国の都市に送り込めるようになる日に、じわじわと近づいているのではないかと心配している。得られている証拠からすると、この目的達成までには少なくとも数カ月、あるいは1年か2年かかると思われる。

そのため北朝鮮は、同じような長距離ミサイルの実験を重ねて標的攻撃能力の精度を上げる必要がある。意味のある抑止力となるには、標的に当てる能力、耐熱力、大気圏再突入能力の開発が必要だ。

軍事装備の実験の目的は、単なる抑止力増強に限らない。このことを念頭におく必要がある。軍事力を誇示し、敵からの圧力に抵抗する手段でもある。

北朝鮮幹部はしばしば、外部からの挑発に対して弱い様子は見せてはならないのだと指摘する。特に、歴史的な敵国・米国に対しては。

ダビデとゴリアテの神話

トランプ大統領は、いずれ北朝鮮を「炎と激怒」で「完全に破壊」しなくてはと思うかもしれないと警告し、金正恩を「ロケットマン」と嘲笑した。米国と国際社会は制裁を強化した。トランプ政権はさらに、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定した。

これはいずれも北朝鮮からすれば、敵対的意図の証拠だ。

トランプ大統領にすれば、自分のタフな物言いは巧みな交渉戦術だと思えるのかもしれない。現在のこう着状態を打破するため、北朝鮮と中国の両方に圧力をかけているのだと。

北朝鮮外務省の幹部の一人は、トランプを「狂ってる(中略)完全なごろつき(中略)ひたすらみっともない哀れなおしゃべり野郎」と呼んだ。

だとするならば、北朝鮮が今後の実験を抑制する必要はほとんどないように思える。ただでさえ北朝鮮の大掛かりなプロパガンダの仕組みは、韓国との戦争の可能性に向けて、国民を奮い立たせているのだし。

実験を繰り返せば、国内の決意は強化され、米国に立ち向かえるだけの自分たちの能力を示すことになる。

北朝鮮政府は、自分たちは米国帝国主義に抵抗しているのだと主張する。語っているのは、単純とは言えないまでも素朴な(そして根本的には噓いつわりの)物語だ。旧約聖書のダビデとゴリアテのように、国際社会の横暴な巨人に立ち向かう自分たちは勇敢でタフな小国なのだと言わんばかりに。

不注意で不用意なツイートを繰り返し、暴言を公言し続けるトランプは、北朝鮮のこの論調を勢いづかせるばかりだ。

均衡はいつ破れるのか

今のところ、北朝鮮が米国と中身のある対話を求めている様子はない。中国とロシアが提案した、双方向の凍結案(米韓合同軍事演習の中止と引き換えに北朝鮮はミサイル実験を停止するというもの)を受け入れようとする様子もない。

北朝鮮が部分的ながらも自制の様子を見せているのは、周辺地域にとってはわずかだが一定の安心につながる。最新の実験は9月15日以来初めてで、朝鮮半島に2カ月半近く続いた沈静期の終わりを意味した。

加えて、金正恩の行動には、一定の方法論と一貫性があるように見える。これまでのところは、グアムやハワイにミサイルを発射するなどという、重大な一線を超える挑発は控えている。

しかし、これはいつまで続くのか。

大気圏核実験を実施する可能性はある。米国や韓国の軍司令部へのサイバー攻撃や、半島西部の北方限界線付近での海上衝突といった低強度の挑発行為もあり得る。そうなれば米韓は、相応ながらもはっきりとした強硬な反撃に出るかもしれない。

そうなれば今度は北朝鮮側が米韓の動きを誤解し、さらに実質的な軍事行動の前哨戦と受け止めるかもしれない。そうすれば、低強度紛争がもっと大きく双方に破壊的ダメージをもたらす紛争にエスカレートする危険が高まる。

こういう状況では、実験についても同様だが、「どれだけやれば十分なのか」という論点がきわめて重要になる。

片方にとっては、国益保護に最低限必要なもので、相手に警告するための行為だったとしても、相手はそれをいとも簡単に「一線を超えた、やりすぎだ、意図的な挑発だ」と解釈してしまえる。

そのような行為によって、均衡はあっさりと破れる。安定して予測可能な状態から、予測不可能な不安定へと。そして、壊滅的な結果につながりかねないエスカレーションへと。

ジョン・ニルソン=ライト博士は、英シンクタンク「チャタムハウス」(王立国際問題研究所)北東アジア担当上級研究員、およびケンブリッジ大学日本政治東アジア国際関係講師

(英語記事 North Korea: What could tip the balance