安倍宏行(Japan In-depth編集長)

 「不倫は文化だ」。かつてそう言い放ったトレンディー俳優がいた。まあ後日、本人が「そうは言っていない」とか言い出して、結局真相はよくわからないが、このフレーズが日本人の脳みそに刻み込まれたことだけは確かだ。

 しかし、昨今の「不倫報道」の加熱ぶりを見る限り、あまり誰も「不倫は文化だ」なんて思っていないようだ。それほど激しいバッシングが週刊誌とテレビ中心に行われている。その理由は?と問われても明確な答えは出てこない。そういう問いは社会学者に聞いてもらいたいものだ。

 去年の頭、「文春砲」によって明るみに出たベッキーの不倫騒動から、不倫関連のニュースがずっと続いているような気がする。不倫といえば芸能人が常連だったが、最近はそこに政治家が参戦しているのが特徴だ。それが美人政治家妻を持つイケメン議員だったり、元人気歌手の女性参院議員だったり、売り出し中の若手女性野党議員だったりするもんだから、大きく扱われるのもむべなるかな、だ。「税金で食っている政治家が不倫とは何事だ!」というのが大方の人の心情と推察するが、中には政治家としての活動と私生活は分けて考えるべきだ、との意見も少しはあるので興味深い。

 ちなみに米国も相当に教条主義的である。ただでさえ不倫に厳しいお国柄だ。それなのに大統領がインターンと、こともあろうか、ホワイトハウスの中で“おいた”をしていたのだから大騒動となった。いわずとしれた、クリントン元大統領とホワイトハウス実習生(当時)モニカ・ルインスキー嬢との「不適切な関係」である。
1999年3月、カナダ・トロントの家電販売店でクリントン米元大統領のセクハラ疑惑に関するモニカ・ルインスキーさんのインタビューを見る従業員(AP=共同)
1999年3月、カナダ・トロントの家電販売店でクリントン米元大統領のセクハラ疑惑に関するモニカ・ルインスキーさんのインタビューを見る従業員(AP=共同)
 最近の若い人はこの世紀の不倫事件を聞いたこともないらしいので、改めて書くと、時は1998年1月のこと。私はフジテレビのニューヨーク特派員としてキューバはハバナにいた。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の初キューバ訪問の取材に来ていたのだ。

 なにせ、ローマ法王と故カストロ国家評議会議長(当時)の初会談だ。全世界の注目も集まろうというものだ。とりわけ米メディアの力の入れようったらなかった。CNNの人気アンカー、クリスティアン・アマンプール氏はぞろぞろと10数人はいようかという「おつき」を引き連れ闊歩(かっぽ)しているし、abcの重鎮アンカー、故ピーター・ジェニングス氏の姿も。アメリカキーテレビ局のキャスターは勢ぞろいだった。

 それが、だ。クリントン大統領のスキャンダルが勃発(ぼっぱつ)した途端、米メディアの引き際がすごかった。一瞬のうちにハバナ市内から消え去り、アメリカへと戻っていったのだった。残された?われわれ日本メディアはその後淡々と法王のキューバ訪問を取材したのは言うまでもない。

 結局、クリントン大統領は弾劾されなかった。とはいうものの、その権威と信頼は大きく傷ついた。そして、ルインスキー氏が失ったものも大きく、さまざまなバッシングも受けその後の人生設計は大きく狂ってしまった。代償はあまりにも大きかったのだ。