西原正(平和安全保障研究所理事長)
平和・安全保障研究所理事長。京都大学法学部卒業。米国ミシガン大学から政治学で博士号を取得。京都産業大学国際関係論助教授、教授を経て、77年から00年まで防衛大学校国際関係論教授。その間、米国ロックフェラー財団客員研究員、防衛研究所第一研究部長を務める。00年から第7代目防衛大学校長。06年退任、同年6月より現職。ASEAN地域フォーラム有識者グループメンバー。領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会座長。13年産経新聞「正論」大賞受賞。


  北東アジアの力関係が変動する中で、安倍晋三首相はそれを巧みに利用し成果を挙げつつある。特に安倍政権を非難し続ける韓国の朴槿恵政権は、慰安婦問題を対日外交の中心に据えているため行き詰まりをみせている。日本は日米同盟を地域の安定軸として北東アジアの勢力均衡を有利に展開する外交を続けるべきである。

日米の不興買う韓国の政策


  韓国で最近会った研究者は「慰安婦問題は朴政権にとって政権の正統性にかかわる問題だ」と言っていた。朴大統領は就任以来、外国要人に「告げ口外交」をし、折あるごとに「歴史を直視していない」と日本を非難してきた。今年3月1日の独立運動記念式典の演説でも8月15日の光復節の演説でも同様の対日批判を展開した。

 当然、日本の反発も強くなる。雑誌などでは、「歴史を直視せよというのなら、ベトナム戦争時代の韓国兵によるベトナム女性への性的暴力を取り上げるべきだ」とか、朝日新聞が慰安婦強制連行報道の誤りを認めたのを受け「韓国は強制連行はなかったという事実を直視すべきではないか」といった反論が噴き出している。

  ラッセル米国務次官補(東アジア太平洋担当)も、歴史認識問題を脇に置いて日韓協力を進めるよう要請している。ケリー米国務長官が今年2月、ソウルで朴大統領と会談した際、大統領が慰安婦問題のみに言及したため、長官は極めて不愉快だったといわれる。

  韓国が反日攻勢で連携を追求している当の中国の戦略は、反日姿勢で協力しつつ韓国を自国の影響下に入れることにある。したがって韓国が反日攻勢への協力を呼びかけると、中国は強力な「韓国抱き込み」外交を展開する。


対中傾斜で揺れる韓国国内


 中国の習近平国家主席は7月3日のソウルでの中韓首脳会談で、来年の抗日戦勝利記念行事を韓国と共催しようと提案した。これには朴大統領も即答は避けたようである。9月27日付の韓国紙朝鮮日報日本語版では、中国指導部に影響力があるとされる王義●・中国人民大学国際問題研究所長が韓国の学術会合で26日、「中韓関係を定義しなおす必要がある。(同盟あるいは準同盟条約の)『中韓善隣友好協力条約』の締結は中韓関係の積極的発展において避けられない流れにある」と述べている。

  このままだと、対中経済依存が深化するとともに、韓国は中国の「衛星国」になってしまいそうである。中国に傾斜しすぎることへの警戒心は、すでに韓国国内でも次第に大きくなっている。  韓国の対中傾斜への懸念は米国でも強くなっている。米国が要請してきた共同のミサイル防衛(MD)構想に対して、韓国が中国への配慮から拒んできた。この4月に行われた米韓首脳会談でも、米国が共同のミサイル防衛を唱えたのに対して、韓国側は独自のミサイル防衛を主張し、2つの立場を併記するという奇妙な共同声明が出された。米軍から韓国軍への戦時統制権(OPCON)移管をめぐっても、韓国が2015年末という時期で揺らいでいることにも、米国は苛立(いらだ)っているという。

  韓国の対米関係の緊張の種はこれにとどまらない。米国は、韓国との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結することに躊躇(ちゅうちょ)している。それは秘密情報が中国に漏れる懸念があるからである。韓国の方も対中配慮から米国との協定には及び腰だという。  米国人の中には、5万人余の米兵の命を犠牲にして韓国を守ったのに、韓国がその敵国、中国に接近していることで、韓国の信頼性を疑問視し、米軍の早期撤退を説く者も増えているという。


日米韓の連携へ引き戻せ


  安倍首相は政権に就いて以来、アジアをはじめ世界50カ国近くを訪問し、そうした多くの国で「集団的自衛権行使を通しての平和への積極的貢献」を説明してきた。これまでのところ、日本の集団的自衛権の行使容認を公に批判したのは韓国と中国だけである。両国はむしろ孤立しており、その日本批判は無力化されている。

  韓国は「自衛隊が朝鮮有事で行動するには韓国の了承が必要」との立場を表明したが、安倍首相は逆に、「在日米軍が半島で作戦するには日本政府の同意が必要」と韓国側をやりこめている。

  安倍首相は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のホストとして、習主席が日中首脳会談を断りにくいのを巧みに利用し、その実現へと動いている。日韓首脳会談が取り残されることに焦った韓国は、あわてて日韓外相会談に応じた。9月24日の国連総会での演説では、朴大統領は慰安婦問題を批判したものの日本を名指しするのは避けていた。

 韓国は、反日政策を進めて中国の影響が増大する不利を、遠からず認識するのではなかろうか。反日政策で米国の支持を失うリスクはもっと大きい。日本は米国とともに韓国が日米韓連携の利点を再認識し、対日政策を軌道修正するよう促すべきである。韓国外交は東アジアの安定に寄与するようなものでなければならない。
●=木へんに危

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