小林照幸(ノンフィクション作家)

 平均寿命と健康寿命のふたつの寿命が延びる中、QOL(Quality Of Life)こと「クオリティー・オブ・ライフ(生活の質、人生の質)」が問われている。

 クオリティー・オブ・ライフは、もともとは終末期医療において、残りの人生をどう充実させるかを考える上で「生活の質」の意味で使われていた。現在は高齢世代全般において「人生の質」を意味する言葉で使われることが多いが、あらゆる世代に当てはまる言葉として「人間らしく、満足して生活しているかを評価する概念」と言ってもいい。

 私はこの19年余、「年を取ったら枯れる」時代ではないと多数見聞きし、60歳以上の高齢者の性および恋愛に関して4冊の関連書をまとめた。

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 「いいトシをして」の偏見を反省し、クオリティー・オブ・ライフに占める性や恋愛の比率の大きさを考えさせられ、「クオリティー・オブ・ライフはクオリティー・オブ・ラブである」と実感した。英語の略称は共にQOLとは、偶然に思えなかったほどだ。

 そもそも「性」の文字は立心偏、つまり「心」プラス「生」から構成されている。生きるに心が伴い性、とはなんとも深い。

 自らも将来は高齢者になることを踏まえて「年を取って枯れるのではない。年を取ることは怖いことでも、恥ずかしいことでもない」とポジティブな印象論を抱くようにもなったのである。

 高齢者の性について言及するとき、夫婦の場合、そして、死別、離婚、未婚などによるシングルの恋愛、不倫の場合と大別できる。まずは夫婦の性から考えてみたい。

 長く連れ添った夫婦の間では、新婚当時と仲が変わらず、というのは難しく、セックスレスも問題となる。セックスレスは4つの要因に大別されよう。

① マンネリから夫婦のどちらか、あるいは双方が「もう結構」と考え、その気にならないケース
② 親の介護、息子や娘、孫との同居が原因となり、夫婦の間でセックスに気を回す肉体的、精神的、時間的な余裕がないケース
③ 加齢に伴い、男性の場合はED(勃起不全 Erectile Dysfunction)、前立腺肥大症など、女性は閉経、性交痛などの肉体的変化によって、若い頃と格差を痛感し、現役からの引退を選択するケース。夫婦双方がセックスレスで納得しているケースもあれば、どちらかが欲求不満のケースもある
④ がん、心臓病、脳疾患をはじめとして、重大な病気が配偶者のどちらか、あるいは双方に発生して、「とてもセックスどころではない」というケース

 これらを踏まえた上で、私はこれまでの取材からセックスレスを回避して「する夫婦」はベストとは言わずとも、ベターな方法を現状で見いだしている、と考えさせられてきた。

 配偶者に60歳以上がいる夫婦で、病気や更年期障害があっても、お互いの体調の良い時を見計らって、夫婦円満維持のための2人の時間を創出する努力をしているケースも少なくない。男性ならば「自力」での勃起にこだわらず、ED治療薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)を使用する、女性であれば膣(ちつ)潤滑ゼリーを用いるなどの努力も講じている。

 セックスはマンネリ、家庭の環境によってセックスどころではないと意識していても、誕生日や結婚記念日といった夫婦間のメモリアルデー、さらには旅行といった日常とは異なる状況下で機会を創出している例が多くあったのである。