併走することで競走馬の闘争本能をかき立てる効果を期待する調教を「併せ馬」という。キレで勝負する馬とは別に、「勝負根性」をウリにする馬もいる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、格闘技としての競馬について考察する。

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 ラストの直線。外に出すか内ラチ沿いに切れ込むか。前回は外側のメリットを中心に書きました。内側はどうしてもゴチャつきやすく、スムースに走りにくい面はあります。

 しかし狭いところが好きな馬もいる。馬体がぶつかっても怯まず、気合が入るタイプです。

 ぶつかることは、日本の競馬ではあまりよしとはしないものの、ヨーロッパでは普通にぶつける。寄せていけば相手も張り合ってくる。陸上の短距離のように走行レーンが決まっているわけではないので、ぶつかって当然。競馬には格闘技の側面もあるということです。「狭いところをこじ開ける」と、よく聞きますね。頭だけ入って、横に揺すって広げていく。ヨーロッパのジョッキーはそれをやります。

 日本でもペナルティを科せられない範囲ならばありではないでしょうか。闇雲ではなく、隣の状況が見えていて、乗り手に自信があることが条件。大事なのは隣の馬の後方の様子。ぶつけたことで隣の後ろが不利を被るといけません。

 ぶつかるといえば、角居厩舎ではやはりデルタブルースでしょう。厩舎に初のGI勝利をもたらした2004年の菊花賞では、4コーナーを回って先頭を行くコスモバルク(4着、五十嵐冬樹騎手)に外からぶつかった。あれでデルタに気合が入った。鞍上(岩田康誠)の気性も無関係ではなく、まあ喧嘩です(笑い)。
2006年11月、豪州の国民的レース、GIメルボルンCを壮絶な叩き合いで制したデルタブルース(右)。2着のポップロックとともに角居勝彦厩舎の管理馬だ=メルボルンのフレミントン競馬場
2006年11月、豪州の国民的レース、GIメルボルンCを壮絶な叩き合いで制したデルタブルース(右)。2着のポップロックとともに角居勝彦厩舎の管理馬だ=メルボルンのフレミントン競馬場
 2006年のメルボルンカップでは、最後の直線、デルタブルースとポップロック(D.オリヴァー騎乗)はぶつけ合いながら上がっていった。先を行くデルタがぶつけられたのですが、デルタのほうが性格的に激しく、火がついた感じでゴール板を駆け抜けました。

 ぶつけて(ぶつけられて)気合が入る馬とその鞍上。そういった特徴を他のジョッキーは当然知っている。あるレースで、力関係を見れば自分の馬は4番手だと分かったとします。上位にぶつかって怯まない馬がいるのかどうか。その馬とぶつかったときにどう対処するのか。自分の乗る馬の特徴を考慮し、レース前にシミュレーションができるわけです。

 枠順が決まり、相手の馬や騎手の癖をビデオでチェックする。何鞍も乗る場合は時間が足りず、エージェントが下調べを手伝うこともあるようです。この馬は直線で垂れてくるとか、この騎手は必ず右側から馬をかわしていくとか。それを頭に入れた上でレースに臨み、視野を広くして、直線ではどこが空くのか、瞬時に判断する。

 ぶつけられることで嫌気が差して競走をやめてしまう馬がいることも確かなら、ぶつかることがイヤではない馬がいるのは確かです。ムチと同様、ぶつかることで火がついてさらに脚を出す。メルボルンカップの映像を見返すと、最後の直線のぶつかり合いはムチを振るう効果があったようにも思えてきます。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位(2017年11月5日終了現在)。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館新書)が発売中。

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