加藤隆則(汕頭大学長江新聞與伝播学院教授)

 中国eコマース(電子商取引)が米国と肩を並べる成長を遂げていることはよく知られているが、情報の領域でもまた、中国のネット化は日本をはるかにしのいでいる。全国の新聞はほぼ無料で電子版を閲覧できるし、テレビのニュース番組も随時、視聴が可能だ。映像・画像を中心にした新進のネットメディアが、時に「削除」の横やりを受けながらも、新奇なニュース発信にしのぎを削っている。

 都市部ではみながスマートフォンを手にし、露店の焼き芋屋まで携帯での代金決済が浸透している。私が教える中国南方の大学でも、学生はもはや財布を手にせず、主要な生活用品はすべて宅配で済ませている。中国は最もインターネットの恩恵を受けている国の一つである。

 モノや情報のほか、国境をまたぐ人の移動も拡大している。公式統計によると、2016年の1年間で、海外を訪れた中国人は延べ1億3千万人を超え、中国を訪問した外国人は7630万人に達した。

 世界各地の観光地ばかりでなく、大学にも中国人留学生があふれ、米ハーバード大学では国別最多の921人、留学生全体の2割近くを占める(同大公式サイト)。海外にいる中国人が携帯で現地の情報を発信し、世界の情勢はたちどころに流れ込んでくる。

 列強の侵略によって半植民地化した近代以降、中国人が現在、少なくとも物質面において、過去にない豊かな生活を享受していることは紛れもない事実だ。まずはこの状況を頭に入れたうえで、言論統制を行っている巨大な隣国をとらえる必要がある。

 習近平国家主席は共産党と軍の権力集中を進め、「一強」体制ができあがりつつある。毛沢東時代への逆戻りだと報じる日本メディアを見かけるが、東西冷戦下で鎖国体制を築いていた時代と今を単純に比較するのは、国際情勢や中国の経済発展、情報通信技術の発展を無視した荒唐無稽な暴論だ。
中国共産党大会の習近平総書記=2017年11月、北京の人民大会堂
中国共産党大会の習近平総書記=2017年11月、北京の人民大会堂
 中国がネットを規制し、言論を統制しようとしていることは、同国を含む世界中が知っている。逆に言えば、そのことを最も切実に、身近に感じているのが中国の人々である。そのうえで、不便を感じながらも、生活に大きな支障がないために忍従している。だから、日本メディアが中国における言論弾圧の事例を繰り返し報じても、中国人の胸には響かない。

 もっと言えば、日本メディアは他国を批判できるほど、言論の自由を堅持し、守っていると胸を張れるのだろうか。上司に意見も言えない記者が増えている。社内で言論の自由はほとんど保障されていない。世界における日本の報道自由度ランキングが年々悪化していることに対し、日本人はあまりにも鈍感に思える。

 では、中国の言論統制をいかに把握すべきか。

 第4回世界インターネット大会が12月3日から5日まで、浙江省烏鎮で開かれ、米アップル社のティム・クック最高経営責任者(CEO)、米シスコシステムズのチャック・ロビンス最高経営責任者(CEO)らの出席が注目を集めた。中国の巨大なネット空間は、たとえ規制があっても、無視できない市場なのだ。露骨なそろばん勘定が透けて見える。

 政経分離が進んでいるのかと早合点しがちだが、習近平は開幕に寄せた書簡の中で、持論の「ネット主権」を強調し、「共同して発展を推進し、安全を保護し、ガバナンスに参画し、成果をシェアする」と述べた。相互の主権尊重にクギを刺したのだ。