そのような中で不思議なのが、今回の発言でイスラエルとパレスチナが共存する「二国家解決」をトランプ氏は崩していない点である。さらに注目したいのが、大使館移転繰り延べ命令に、結局トランプ氏が署名した点である。1995年に議会を通過したエルサレムへの大使館建設法案を延期してきた歴代の大統領を散々批判した後で、トランプ氏は過去の大統領と同じよう対応を選んだ。

 この矛盾するトランプ氏の言動をさらに想像してみる。過去25年ほどの間、イスラエルが常に優勢である中、そもそもパレスチナ和平が全く進む可能性が見えない。乱暴だが逆にエルサレムをイスラエルのものと認めて、和平の中立的な仲介役としての米国の立場を捨てようと思ったのではないか。米国が和平から抜ける一方で、パレスチナ和平をイスラエルとパレスチナの間で進めさせた方が現実的な和平になるという「ショック療法」だったかもかもしれない。

 「首都承認」発言後、イスラエルのネタニヤフ首相に「あまり公に喜びすぎるな」とトランプ氏が伝えたと言われており、それを見るとショック療法である可能性も確かに見える。ただ、そんな破天荒な治療がどれだけうまくいくかわからない。
2017年12月、パレスチナ人の抗議デモで燃やされるトランプ米大統領やイスラエルのネタニヤフ首相の写真=パレスチナ自治区ガザ(ロイター=共同)
2017年12月、パレスチナ人の抗議デモで燃やされるトランプ米大統領やイスラエルのネタニヤフ首相の写真=パレスチナ自治区ガザ(ロイター=共同)
 ただ、今回のトランプ氏の発言は国際社会からの反発は必至であり、すでに多くの混乱が起こりつつある。イスラム国との戦争で力をつけたレバノンのシーア派組織ヒズボラなどがイスラエルへの攻撃に踏み切る可能性もあろう。最近米国との関係が悪化しているトルコの反発なども考えられるだろう。

 ここ数年の中東情勢の変化の中で、何と言ってもイランの台頭が大きい。「アラブの春」でアラブ諸国が大いに動揺し、そこにイランが進出している形だ。トランプ氏が今年5月、最初の外遊先としてサウジアラビアを選んだのは偶然ではない。この外遊でイランを敵視することでつながるサウジアラビア、エジプト、イスラエル、米国で「対イラン包囲網」を作ろうという狙いが明確にしている。

 サウジアラビア、エジプトはイスラム世界から非難され、トランプ氏の発言を取りあえず強く批判した。トランプ政権に近い両国が「はしごを外された」として、非難の姿勢をどう取るかは難しいところだが、本音の部分では対イランで米国と組む方が得策という考えもあるのかもしれない。

 これまでの秩序をぶっ潰す「壊し屋」トランプ氏。この難しい「怪物」とわれわれはうまく付き合っていかなければならないことを今回の発言を通じてさらに痛感した。