和田大樹(外交・安全保障研究者、清和大講師)

 米国のトランプ大統領が12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と容認し、数年以内に最大都市テルアビブから米国大使館を移転させるという前代未聞の方針を明らかにした。トランプ氏は大統領選の時から、エルサレムに移動させることを公約としてきたが、今回の決定の背景には、国内のキリスト教福音派など自らの支持層の期待に応える狙いがあるとみられる。

 当然のことながら、この決定に対してはパレスチナをはじめ、サウジアラビアやヨルダン、エジプト、マレーシアなどイスラム圏諸国に加え、欧州や国連などから既に非難や懸念の声が続出しており、今後の中東情勢の先行きが不安視されている。特に、今年10月中旬にはパレスチナ自治政府の主流派ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、10年に及ぶ分裂に終止符を打つための和解案に署名するなど、中東和平へ明るい兆しが見え始めていた時期だけに、両者からは怒りとともに悲嘆の声さえも聞こえる。
2017年12月6日、米ホワイトハウスでエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表したトランプ大統領(UPI=共同)
2017年12月6日、米ホワイトハウスでエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表したトランプ大統領(UPI=共同)
 しかし、今回の決定が与える影響は、米国とアラブ諸国を中心とする国家間関係だけで収まる気配はなく、国際的なテロ情勢にも一定の影響を与える可能性がある。ここでは、米国によるエルサレム首都容認が今日の国際テロ情勢に与える影響と、それによる日本権益へのリスクについて危機管理の視点から考えてみたい。

 米国によるエルサレム首都容認に各国から懸念の声が高まる今日、2014年以降猛威を振るってきた過激派組織「イスラム国」(IS)は、シリアとイラクで領域支配をほぼ完全に喪失した。一般世論では、9・11以降のアルカーイダに続き、ISの時代も終わったとの風潮が流れている感があるが、現実はそう易しいものではない。

 まず、多くのIS戦闘員は殺害、もしくは拘束されたものの、依然として逃亡を続ける戦闘員がいる。こういった戦闘員は支配領域を失ったとしても、内戦や戦闘が続くシリアやイラクでテロ組織としての活動をひそかに継続し、組織として復活できる機会を狙うことになるだろう。

 また、既に母国や第三国に移動した戦闘員もいるが、帰還者による母国でのテロの脅威に加え、ISとしての信念を持ち続ける戦闘員らが周辺諸国や他地域に移動し、再度、模擬国家構築を目的とする戦闘を開始することが懸念される。既にフィリピン南部のミンダナオ島マラウィやリビア中部のシルトはそれに近い状況にあったといえるが、第三国へ移動した戦闘員たちはその機会をうかがいながら、ひそかに活動を続けることになるだろう。