[世界潮流を読む 岡崎研究所論評集]

岡崎研究所


 Gideon Rachman英フィナンシャル・タイムズ紙主席外交論説委員は、2014年11月24日付の同紙で、世界をいくつかの勢力圏に分け、それらの間のバランスをはかることで世界の安定を確保していくとの思想に反対し、米国を中心とする自発的な同盟体制の維持を主唱しています。

 すなわち、中国、ロシアは11月下旬北京での軍事協力委員会で、2015年春に地中海で共同海軍演習を行うと発表した。両国とも、自国の国境近接地域で西側が軍事行動を行っているのに反発し、自分たちもNATOの懐でパトロールができることを示そうというのである。

 この示威行為の背景には、「勢力圏」という考え方がある。両国とも、自分の周辺領域では他者の干渉を排する権利を持ちたいのである。ロシアがウクライナのNATO加盟に反対し、更に旧ソ連の領域にロシアの勢力圏を確立するため「ユーラシア連合」を作ろうとしていることは、その一例である。

 中国はこれまで主として経済力でアジアでの影響力を拡大してきたが、今や安全保障問題についても自己主張を強めている。2013年に中国が東シナ海に設定した「防空識別圏」はその一例である。

CICA首脳会議を前に、握手するロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席
 西側には、平和を乱さないためにこの現実を認め、ロシア、中国にこの「勢力圏」を暗黙の裡に認めてしまえとする者もいる。例えばキッシンジャーは、ウクライナに対して、お前たちは自分の将来を勝手に決めることはできないのだよと諭して、平然としている。

 しかしオバマ政権は、そのような考え方に対して明確に反対の立場をとっている。勢力圏を認めれば、ロシアはウクライナがNATOやEUに加盟するのを禁ずることができるだろうし、中国はベトナム、フィリピン、そして日本にさえ、朝貢を強制するだろう。

 米国は、世界の諸国は自ら望んで米国との同盟関係を結んでいることを指摘する。米国の希望と同意に基づく勢力圏と、中国、ロシアの脅迫と力によって作られた勢力圏の間には大きな差がある。どの国も、ロシアや中国の勢力圏に組み込まれそうになると、米国との同盟を固めようとするのだ。ポーランドから日本に至るまで、そしてその中間の諸国も含めて、米国の同盟国は別に米国に説得されずとも、米国の安全保障の傘の下にいることを望むのである。2015年中国海軍が地中海に現れれば、周辺国はNATOを益々頼りにすることだろう、と述べています。

出典:Gideon Rachman ‘China, Russia and the Sinatra doctrine’ (Financial Times, November 24, 2014)

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 筆者のGideon Rachmanは、英フィナンシャル・タイムズ紙の国際問題論説委員長です。彼は、例えばキッシンジャーが近著『World Order』で主張したような、世界をいくつかの勢力圏に分け、それらの間で世界の安定を確保していくという思想に反対し、米国を中心とする同盟体制の維持を主唱しています。キッシンジャーの思想では、アジア及び日本を中国の差配に委ねることを意味するので、本件論説は、日本にとっては、日本の利益にかなったものと言えるでしょう。

 従って、この論説には賛成です。第2次世界大戦後の世界では、それまでの植民地分割体制を破って、米国による世界市場の統一が成し遂げられました。その世界市場は、IMF、GATTによって経済的に、米国との同盟体制によって軍事的に維持されてきましたが、日本、西欧諸国はそれに組み込まれたと言うよりは、むしろ主体的に利用してきたと言えましょう。

 一方、中国やソ連は、冷戦中、保護主義を取って、後れた経済と、それに基づく権力を守っていましたが、1990年代にはグローバル市場に参入し、それでもロシアは後れた経済を守るために、旧ソ連という市場を政治力・軍事力で維持しようとし、中国は台湾併合についてのフリー・ハンドを得たいがために、周辺海域から米軍を押し出そうとし始めました。

 地中海は、日本から程遠い所です。日本が念頭に置いておかなければならないのは、周永康事件も片づけて習近平体制を固めつつある中国が、力によってではなく、経済力等のソフト・パワー、スマイルを前面に出して「勢力圏」構築の動きに出てきた場合、ASEAN等もそれになびき、日本が不利な立場に置かれる可能性があることです。その際に、米国がアジアを中国に委ねるようなことがないように、日本は、更に日米同盟を強化しておくことが必要です。