中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト)

 トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスのローズルームで行った演説の中でエルサレムにアメリカ大使館を移すことを決定したと発表した。言い換えれば、エルサレムをイスラエルの首都として承認したのである。

 イスラエルは現在、政府と議会、最高裁をエルサレムに置き、実質的にイスラエルの首都として機能を果たしているが、大使館を置いている国は一カ国もない。アメリカは公使館を2カ所置いているが、大使館は他の国と同様にテルアビブに置いている。エルサレム問題はイスラエルとパレスチナの対立の核心の問題の一つであり、エルサレムをイスラエルの首都として承認することは、和平交渉を阻害することになると考えられていた。だが、トランプ大統領は、そうした世界の「常識」を大きく変える決定を行ったのである。

 トランプ大統領は大使館移転の決定の理由として、1995年に米議会が可決した「エルサレム大使館移転法」によって、政府は大使館を移し、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求められている点を挙げた。同法はクリントン大統領によって署名されたが、これまで実行に移されることはなかった。
2017年5月、エルサレムで演説するトランプ米大統領(左)に拍手を送るイスラエルのネタニヤフ首相(AP=共同)
2017年5月、エルサレムで演説するトランプ米大統領(左)に拍手を送るイスラエルのネタニヤフ首相(AP=共同)
 歴代大統領が大使館移転を延長してきたのは、イスラエルとパレスチナの和平交渉を成功させるために必要だと判断したからである。トランプ大統領は、大使館移転延長にもかかわらず和平交渉は前進を見なかったと批判し、「まったく同じ方式を繰り返すことで異なった結果、あるいは良い結果が出てくると考えるのは愚かなことである」と指摘。そして「この行動(大使館移転)がアメリカの利益とイスラエルとパレスチナの間の和平追求に最も叶うと判断した」と、エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認する狙いを説明した。

 それにしても、「なぜ」という疑問は残る。そもそもアメリカ大使館をエルサレムに移すというのはトランプ大統領の選挙公約であった。だが、「エルサレム大使館移転法」には移転を猶予するウェイバー条項が含まれており、歴代大統領は6カ月ごとに同条項に基づき移転を猶予する決定を行ってきた。

 実はトランプ大統領も6月に移転猶予を認める決定を行っている。テクニカルに考えれば、12月に再度、大使館移転猶予の決定を行うかどうか決めなければならなかった。トランプ大統領にとって、問題はアメリカ大使館をエルサレムに移転するかどうかではなく、いつ移転するかだった。そしてトランプ大統領は移転猶予が切れる12月に移転を決断した。

 だが、大使館移転が決定されたのは、発表の直前であった。トランプ大統領の女婿で、トランプ政権で中東政策の責任者に任命されているジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は12月3日にブルッキングス研究所で開かれたセミナーで、「大使館をエルサレムに移転するかどうか決まっていない」と語っている。それから3日後、トランプ大統領は大使館移転を決定したことになる。