要は、決定は緊急性を必要とする問題ではなかったのだ。トランプ大統領は6月に一度移転先送りを決定しており、12月に同様な措置を取っても事態は変わるわけではなかった。一部のメディアは、トランプ大統領の支持基盤であるユダヤ系アメリカ人とエヴァンジェリカル(キリスト教原理主義者)に対する配慮があったと説明している。エヴァンジェリカルは聖書に基づき、神はエルサレムをユダヤ人に与えると考えており、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求めていたからだ。

 だが、トランプ大統領の支持基盤にアピールするためという理由だけでは、敢えて今、世界中の反発が予想される決定を行ったのか十分には説明はできない。さらにトランプ大統領はクシュナー氏に「最終的な交渉」の道を探るように指示し、4人で構成される中東チームが結成され、年明けに中東和平の青写真を発表する手はずになっていたという。

 この4人とは、クシュナー氏と弁護士のブリーンバルト氏、デビッド・フリードマン駐イスラエル大使、ディナ・パウエル大統領副補佐官である。パウエル氏以外は皆ユダヤ系アメリカ人で、イスラエル支持派である。パウエル氏はエジプト出身で、キリスト教徒だ。4人は精力的に中東の指導者と面談を繰り返し、和平交渉の道筋を探っていた。こうした状況からすれば、中東チームが包括的な和平案を出してから大使館をエルサレムに移す決定を行っても遅くはなかったはずである。
エジプトのシシ大統領(右)とクシュナー米大統領上級顧問=2017年8月、カイロ(中東通信提供、AP=共同)
エジプトのシシ大統領(右)とクシュナー米大統領上級顧問=2017年8月、カイロ(中東通信提供、AP=共同)
 トランプ大統領の決定を、いつもの「気まぐれ」と判断するのは単純過ぎるだろう。決断するには、何らかの根拠があったに違いない。トランプ大統領は6月にイスラエルを訪問している。さらに、これまでイスラエルのベンヤミン・ネタニセフ首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領とそれぞれ3回にわたって会談。また、大使館移転発表の数日前にネタニセフ首相と電話会談を行っている。これらを踏まえれば、トランプ大統領の決定を促す何らかの要因があったと考える方が自然である。

 トランプ大統領が声明の中で触れているように中東和平交渉は行き詰まっていた。従来のやり方では打開策は見つからない状況にある。そうした状況に一種のショック療法を行ったとの見方もある。ただ、ショック療法は大きなリスクを伴う。中東和平交渉でアメリカは中立的な役割を果たし、「正直な仲介者」と見られてきた。

 だが、トランプ大統領の決定は、アメリカはイスラエル側に立つことを意味する。そうしたリスクを敢えて犯してもよいという判断があったのかもしれない。単にトランプ大統領が親イスラエルであるだけでは説明できない。そのカギを握るのが、中東情勢の変化である。