現在、中東諸国にとって最大の脅威となっているのは、イスラエルではなくイランである。アメリカの雑誌『Commentary』の上席編集者のソーラブ・アーマリ氏は「中東の多くの国はイランに対抗する潜在的な同盟国としてイスラエルに期待している」と、中東情勢の変化を指摘している(同誌、12月6日、「Trump has a capital idea on Jerusalem」)。

 中東諸国の中にはイスラエルとの関係を強化する動きが見られる。その代表格がサウジアラビアである。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、11月にアバス大統領はサウジアラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談を行っている。その際、皇太子は和平案を提案している。その中に東エルサレムはパレスチナに返還しないとの項目が含まれていた。

 さらにパレスチナ難民の帰国を認めないなど、パレスチナにとって厳しい内容も含まれていた。サウジはこうした厳しい条件をパレスチナに示す見返りに潤沢な経済援助を行う提案をしている。ただ、両国とも、そうした報道を否定している。だが、アーマリ氏は「アラブの主要国にとってイスラエル・パレスチナ和平交渉よりも反イラン同盟の方が重要になっている」と指摘している。

 またアッバス大統領は高齢化し、パレスチナ内における影響力も低下している。先の見えない和平交渉をどこかで打開したいとの気持ちもうかがえる。またアメリカ国内でも、パレスチナに対する援助打ち切りの法案が提出されている。アバス大統領は、トランプ大統領の決定に対して「エルサレムをイスラエルの首都として認めるようなアメリカの政策、あるいはアメリカ大使館をエルサレムに移す政策は、平和交渉にとって脅威であり、パレスチナにとっても、アラブにとっても、国際的にも受け入れることはできない」と厳しい口調で批判している。

 だが、膠着状況の和平交渉を打開し、前進させるためには、従来のやり方では通用しなくなっていることは明らかである。トランプ大統領の決定が交渉を新しい段階に導くのか、あるいはパレスチナやイスラム教徒から強烈な反発を招き、新たな流血事態につながるのか、まだ判断できない。そもそも、外交政策の動きは表面的には見えないものである。
トランプ米大統領(右)とパウエル大統領副補佐官=2017年9月、ホワイトハウス(ロイター=共同)
トランプ米大統領(右)とパウエル大統領副補佐官=2017年9月、ホワイトハウス(ロイター=共同)
 ただ、ひとつだけ気になる事柄を指摘しておく。それは中東チームの唯一の非ユダヤ人であるパウエル氏が辞任を発表していることだ。表面上は、パウエル氏は当初から1年の予定で補佐官の職務に就くと決めていたと報道されているが、トランプ大統領の政策や中東チーム内の政策を巡る確執があったのかもしれない。とすれば、トランプ大統領の行動は熟慮を重ね、中東情勢の微妙な変化を読み取ったものとは言えなくなるかもしれない。