「エルサレムの現実」を変えたトランプの論理

『川上泰徳』

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川上泰徳(中東ジャーナリスト)

 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米国大使館をエルサレムに移転させることを発表した。パレスチナとアラブ諸国、さらにイスラム世界で反発が広がり、国際的な批判が上がっている。この決定は1995年に米議会が採択したが、歴代の大統領が半年ごとに延期してきたものを、トランプ大統領が23年目にして実施を発表した。トランプ氏の決定はこれまで国連安保理が「平和の障害」として非難し、「無効」としてきたイスラエルの行動を是認するもので、その決定自体が安保理決議違反の可能性が強い。

エルサレムをイスラエルの首都だと認め、大使館を移すと発表する トランプ米大統領=2017年12月6日、米ワシントンのホワイトハウス
 まず、トランプ大統領の発表の論理を考えてみよう。演説の中で「私の発表はイスラエルとパレスチナの間の紛争に対する新たなアプローチの始まりとなる」と語った。1995年に米議会は「エルサレム大使館法」を採択し、エルサレムを首都と認定して、米国大使館を移転させること決めた。トランプ氏は「歴代の大統領は20年以上にわたって、エルサレムの認知を遅らせることが平和につながると信じて、法律の実施を拒否してきた。しかし、イスラエルとパレスチナの間の恒久的な和平の実現につながっていない」という認識を示した。

 その上で、「イスラエルが自国の首都を決定することを含む権利を持つ主権国家であり、この事実を認めることは和平の実現にとって必要な条件である」とし、「それは現実を認めることでしかない」とした。

 トランプ大統領は「この決定は、われわれが恒久的な和平合意を仲介する強い役割から離脱するということではない。私たちはイスラエルとパレスチナの間の偉大な合意を求めている」と主張する。さらに「米国は、エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」とする。

 トランプ大統領の決定が何を意味するかは、エルサレムをめぐるこれまでの議論を振り返ることで、自(おの)ずと見えてくる。

 エルサレムは1947年の国連パレスチナ分割決議では国連管理となっていたが、48年の第1次中東戦争で、エルサレム旧市街を含む東エルサレムはヨルダンが支配し、西エルサレムはイスラエルが支配し、東西に分断された。その後、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが旧市街を含む東エルサレムを、ヨルダン川西岸ともども占領した。1980年にイスラエル議会は東エルサレムを含む「統一エルサレム」はイスラエルの首都とするエルサレム基本法を可決した。今回のトランプ大統領の決定は、このイスラエル議会・政府のエルサレム首都化を認定するものである。

 しかし、このイスラエルの動きに対して、国連安全保障理事会は決議478号を賛成14、棄権1(米国)で採択し、「イスラエルの基本法を認定せず、基本法に基づくイスラエル行動はエルサレムの性格と地位を変更しようとするものとして認定しないことを決定する」とした。決議では「武力による領土の獲得は容認できないということを再確認する」として、「占領者であるイスラエルが基本法によって聖地エルサレムの性格と地位を変更することに法的効果はなく、無効であり、直ちに撤廃されなければならない」としている。
トランプが和平の実現を語る矛盾

 さらに決議では「この(イスラエルの)行動は中東での包括的で、公正で、恒久的な和平の達成に対する深刻な障害となる」としている。決議ではすべての加盟国に対して、「安保理の決定の受け入れ」を求め、さらに「エルサレムに外交使節を置く解明国に聖地からの撤退」を求めた。

 この安保理決議を受けて、米国や日本を含むほとんどの国連加盟国はイスラエルが首都宣言をしているエルサレムではなく、テルアビブに大使館を置いてきたのである。トランプ大統領がイスラエルによる東西エルサレムの首都化を「現実」として認定すると発表しても、それを「法的効果はなく、無効」という安保理による決定が変わるわけではない。イスラエルによる東エルサレムの占領から、50年が経過したが、それが「武力による領土の獲得」だという「事実」は変わるわけではなく、トランプ大統領の発表は安保理決議に違反し、米国大使館がエルサレムに移転されれば、それも決議違反ということになる。

 安保理決議がイスラエルによる統一エルサレムの首都宣言を「恒久的な和平の達成に対する深刻な障害」と認定したことは、イスラエルが東エルサレムを占領した1967年の第3次中東戦争後に採択された安保理決議242号とつながってくる。

 それは中東和平の原則を定めるもので、「国連憲章の原則は公正で恒久的な中東での平和の確立を求めており、次の二つの原則の実施が含まれるべきだ」としている。その二つの原則とは、①イスラエル軍が今般の紛争によって占領した領土からの撤退、②すべての要求または交戦状態を終わらせ、地域のすべての国家の主権と領土の一体性を認め、平和のうちに生存する権利を尊重する。

 決議242号は、イスラエルに占領地からの撤退を求め、代わりにアラブ諸国にイスラエルの承認と生存権を認めることとを求めていることから、「土地と平和の交換」として、現在まで米国が仲介者を自任する中東和平の原則として認識されている。占領から13年たっていようとも、占領地の東エルサレムを含む「統一エルサレム」を首都と宣言することが、安保理決議242号が提起する中東和平の原則に反することは明らかである。

記念撮影するクシュナー米大統領上級顧問(左)
と 河野太郎外相=2017年11月5日、東京都港区
 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定したことは、「武力による領土の獲得」を認めないとする前提に反するものであり、それを認めれば、決議242号が提起する「土地と平和の交換」の原則は困難にする。トランプ氏が「和平の実現」を語るのは全く矛盾する話なのである。

 トランプ大統領の決定に欧州各国も批判し、懸念を表明しているのは、その立場がこれまでの中東和平の枠組みと矛盾し、それを否定するものだからである。その中で、河野太郎外相が「(トランプ氏が)恒久的な和平合意の促進への強固なコミットメントと二国家解決への支持を表明したことは評価する」と語ったのは、全く筋違いの話である。

 トランプ大統領はエルサレムがイスラエルの首都だと認定することを「現実を認めることにすぎない」とし、その上で、「エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」と語る。そのことは、イスラエルが武力によって東エルサレムにユダヤ人入植地を建設し、さらにエルサレムの境界をはるかに超えてヨルダン川西岸に建設した大規模入植地をも「現実」として認めることにつながるだろう。
第3次インティファーダは起こるか

 イスラエルはこの50年間、国連安保理が「紛争によって取得した領土」と認定している東エルサレムとヨルダン岸西岸でユダヤ人入植地を建設し、東エルサレムで20万人、ヨルダン川西岸に40万人の入植者が住んでいる。占領から50年が過ぎ、多くのイスラエル人は東エルサレムの入植地はもちろん、エルサレムの周辺にあるユダヤ人入植地が、占領地であることを忘れている状態である。

 さらにイスラエルは今世紀に入って、ヨルダン川西岸とイスラエル本土の間に分離壁を建設した。ただし、ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地は分離壁の内側に入れられ、東エルサレムにあるパレスチナ人が住んでいる地域は分離壁の外に置かれて、エルサレムから切り離され、パレスチナ人をエルサレムから排除しようとしている場所も多い。

 このようにイスラエルが武力にものを言わせて、次々と「エルサレムの現実」を変えていることが、「土地と和平の交換」の原則に基づく和平の実現をますます困難にしている。その上で、トランプ大統領が決議478号に反してエルサレムをイスラエルの「永遠の首都」と宣言したイスラエル基本法を認めて、米国大使館をエルサレムへの移転を命じたことは、力による違法を是認し、和平の終わりを意味するのは自明のことである。

イスラエル治安部隊の催涙ガスなどの被害を受け、運ばれるパレスチナ人 =2017年12月9日、パレスチナ自治区ベツレヘム
 エルサレムをめぐる今回のトランプ大統領の決定は、中東に何をもたらすだろうか。

 パレスチナ側の反発による第3次インティファーダ(民衆蜂起)の懸念を危惧する声が盛んに出ている。しかし、2002年3月にイスラエルによるヨルダン川西岸への大規模侵攻の時、新聞社のエルサレム特派員として現地にいた私の経験から考えれば、パレスチナ人による第3次インティファーダが起こるとは考えにくい。第2次インティファーダでは、イスラエルの圧倒的な軍事力に対抗するために、ファタハとハマスの武装部門は、イスラエルの民衆を標的にするというテロ戦術をとったが、その結果、イスラエルの大規模な武力行使を許し、パレスチナ社会に決定的な敗北と挫折を残した。

 ヨルダン川西岸や東エルサレムの入植者や兵士に対する単発的なテロは起こるかもしれないが、第2次インティファーダのようにファタハとハマスの武装部門が前面にでてテロ戦術をとるとは考えにくい。さらに民衆の怒りが爆発するだけでは「民衆蜂起」にはならない。かといって、1887年12月に始まった第1次インティファーダのような住民による不服従運動のような市民中心の組織的な動きも、現在のファタハとハマスによるそれぞれの強権支配の元で起こるとは考えにくい。
トランプとイスラエル右派の親密さ

 トランプ大統領の決定を受けて危惧される危機は、パレスチナ側の動きから起こるのではなく、むしろイスラエル側から起こると考えるべきであろう。トランプ氏はイスラエルが力で「現実」を変更していくことを認定した。「和平と土地の交換」の原則が崩れた後、トランプ大統領が仲介する「和平」は、イスラエルが力で生み出した「現実」をパレスチナ側に押し付ける形しかないだろう。米国の後ろ盾を得て、イスラエルが大規模な軍事行動に出て、さらにパレスチナの土地を奪うか、パレスチナ人を排除するか、どちらかの可能性を心配すべきだろう。

エルサレム旧市街の壁に映し出された米国とイスラエルの国旗 =2017年12月6日
 イスラエルでの次の議会選挙は2019年11月までに行われるが、これまでは期限より前に行われてきた。一方、2008年12月以来、イスラエルによる大規模なガザ攻撃が3回あったが、3回ともイスラエル議会選挙の前の1年間に起こっている。イスラエルによる最後の大規模軍事行動は2014年夏のガザ攻撃だった。パレスチナまたはレバノンのヒズボラとの“戦争”を演出して、国内の支持を集めるのはイスラエル政府の常とう手段であり、次の議会選挙に向けて、ネタニヤフ政権がいつ大規模な戦争オプションをとる可能性を考えていなければならない。
 
 特に現ネタニヤフ政権の国防相は、イスラエルで2割を占めるアラブ系市民の排除を唱える発言を繰り返してきた極右政党「わが家イスラエル」のリーバーマン党首である。トランプ氏の人種差別的な主張や政策は、イスラエルの極右政党の主張とも通じるものがある。トランプ大統領は就任前から、イスラエルのネタニヤフ政権と一体化するような言動を繰り返してきた。歴代の米政権はイスラエル支持を表明してきたが、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードよりも、和平推進を掲げる労働党政権との親和性が強かった。トランプ大統領のようにイスラエルの右派や極右との親密な姿勢は、これまでの米大統領にはなかった。

 トランプ大統領の決定に対して、アラブ世界では反米デモなどはかなり抑制的である。ほとんどのアラブ諸国は若者たちが反乱を起こした2011年の「アラブの春」の後、強権化が進み、民衆による自発的なデモができなくなっている。サウジアラビアの王宮府はトランプ氏の決定を「無責任で正当化できない動き」と批判する声明を出したが、国内メディアに対してはこの問題の扱いを抑制するように指示したという報道も出ている。民衆の抗議デモが抑えられれば代わりに出てくるのは過激派によるテロである。

 世界中からシリアやイラクに入って戦闘経験を積んだ「イスラム国」(IS)やアルカイダ系組織の戦闘員は、いま、軍事的に追い詰められて出身国への帰還や第3国へ移動しようとしている。しかし、受け入れ先での市民、住民の協力がなければ、戦士も動くことができない。今回のトランプ氏の決定によってイスラム教徒の間に広がる怒りを追い風として、イラク、シリアからのイスラム過激派の欧米、アラブ世界への帰還や拡散が進むことになり、いずれはテロという形で米国に向かうことになるだろう。

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