トランプ大統領の決定を受けて危惧される危機は、パレスチナ側の動きから起こるのではなく、むしろイスラエル側から起こると考えるべきであろう。トランプ氏はイスラエルが力で「現実」を変更していくことを認定した。「和平と土地の交換」の原則が崩れた後、トランプ大統領が仲介する「和平」は、イスラエルが力で生み出した「現実」をパレスチナ側に押し付ける形しかないだろう。米国の後ろ盾を得て、イスラエルが大規模な軍事行動に出て、さらにパレスチナの土地を奪うか、パレスチナ人を排除するか、どちらかの可能性を心配すべきだろう。

エルサレム旧市街の壁に映し出された米国とイスラエルの国旗
=2017年12月6日
エルサレム旧市街の壁に映し出された米国とイスラエルの国旗 =2017年12月6日
 イスラエルでの次の議会選挙は2019年11月までに行われるが、これまでは期限より前に行われてきた。一方、2008年12月以来、イスラエルによる大規模なガザ攻撃が3回あったが、3回ともイスラエル議会選挙の前の1年間に起こっている。イスラエルによる最後の大規模軍事行動は2014年夏のガザ攻撃だった。パレスチナまたはレバノンのヒズボラとの“戦争”を演出して、国内の支持を集めるのはイスラエル政府の常とう手段であり、次の議会選挙に向けて、ネタニヤフ政権がいつ大規模な戦争オプションをとる可能性を考えていなければならない。
 
 特に現ネタニヤフ政権の国防相は、イスラエルで2割を占めるアラブ系市民の排除を唱える発言を繰り返してきた極右政党「わが家イスラエル」のリーバーマン党首である。トランプ氏の人種差別的な主張や政策は、イスラエルの極右政党の主張とも通じるものがある。トランプ大統領は就任前から、イスラエルのネタニヤフ政権と一体化するような言動を繰り返してきた。歴代の米政権はイスラエル支持を表明してきたが、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードよりも、和平推進を掲げる労働党政権との親和性が強かった。トランプ大統領のようにイスラエルの右派や極右との親密な姿勢は、これまでの米大統領にはなかった。

 トランプ大統領の決定に対して、アラブ世界では反米デモなどはかなり抑制的である。ほとんどのアラブ諸国は若者たちが反乱を起こした2011年の「アラブの春」の後、強権化が進み、民衆による自発的なデモができなくなっている。サウジアラビアの王宮府はトランプ氏の決定を「無責任で正当化できない動き」と批判する声明を出したが、国内メディアに対してはこの問題の扱いを抑制するように指示したという報道も出ている。民衆の抗議デモが抑えられれば代わりに出てくるのは過激派によるテロである。

 世界中からシリアやイラクに入って戦闘経験を積んだ「イスラム国」(IS)やアルカイダ系組織の戦闘員は、いま、軍事的に追い詰められて出身国への帰還や第3国へ移動しようとしている。しかし、受け入れ先での市民、住民の協力がなければ、戦士も動くことができない。今回のトランプ氏の決定によってイスラム教徒の間に広がる怒りを追い風として、イラク、シリアからのイスラム過激派の欧米、アラブ世界への帰還や拡散が進むことになり、いずれはテロという形で米国に向かうことになるだろう。