山本佳奈(青空会大町病院医師)

 「より多くの医師が地方に行きたいと思う仕組みが必要だ」
 こうした対策を求める声が、医師の偏在対策をめぐる議論の中で相次いでいるという。南相馬で働く私には、こうした発言が全く理解できない。

 私は、福島県南相馬市にある青空会大町病院で勤務している3年目の内科医だ。南相馬市立総合病院での初期研修を終え、3年目の医師としてスタートさせた矢先、同じ市内にある大町病院の常勤内科医がいなくなってしまうと聞いた。内科を受診できなくなっては、住民の方の健康を守ることはできないと思った私は、少しでもお役に立ちたいという一心で手を挙げた。

津波で全ての家が流され更地になった集落。左奥には唯一残った「一本松」があり、海岸線では防潮堤の工事が進む=2017年2月、福島県南相馬市
津波で全ての家が流され更地になった集落。左奥には唯一残った「一本松」があり、海岸線では防潮堤の工事が進む=2017年2月、福島県南相馬市
 大町病院の常勤内科医は私一人。いよいよ12月中旬には、非常勤の内科医もいなくなってしまう。そうなると、週10コマの外来と、15名程の入院管理、さらに月5回の当直をこなさないといけない。それが、南相馬の現状だ。

 「やはり、医師を地方に強制的に派遣する仕組みを作らないと、医師不足は解決しないのではないか。」という声が聞こえてきそうだ。だが、考えてみてほしい。縁もゆかりもなかった地域での勤務を強制させられた医師が、その地域でずっと住民の健康を守りたいと思えるだろうか。

 医師の偏在解消策の一つとして検討されている案に、若手医師の「僻地(へきち)勤務の義務化」が挙げられているという。私は、この話を聞いてあぜんとした。もしも、そんなことが義務化されたとしたら、選択肢が無数にある中で医師という職業を選択する自信が、私にはない。

 医学部受験の時は、何としても医師になりたいという一心で勉学に励んだ。医学生になってからは、目の前の試験に追われながら、医学を知るようになり、医療を知るようになった。そして、いろんな医師像があることを知り、自分はどんな医師になりたいのかを真剣に考えるようになった。

 だが、医学生の私がみていた医療は、大学病院中心の医療でしかなかった。病気を治すだけでなく、住民の健康を守るという役割も医師が担っていることを、地域医療に携わって初めて知った。また、南相馬にやってきて初めて、関西ではクリニックや医師を自分の意志で選択できるという恵まれた環境で育ったことに気がついた。

 医師になってからは、主治医としての臨床経験を一例でも多く積むことを考えるようになった。患者さんのことはもちろん、患者さんと家族の関係や、家族の思いは、医学知識をいくら詰め込んでも分からない。やりとりを重ねることで、医療を学び、その地域の考え方や文化や歴史に触れ、自分もその地域に受け入れてもらえるようになってきた。新しい地域に慣れ、地域に溶け込むには長い歳月が必要であることを、慣れ親しんだ地域を離れることで痛感した。