森本敏(拓殖大学特任教授)
 昭和16年、東京都出身。防衛大学校卒業後、航空自衛隊を経て外務省安全保障課に出向。外務省入省後、情報調査局安全保障政策室長などを歴任。拓殖大海外事情研究所長や初代の防衛相補佐官などを務め、平成24年6月に野田佳彦政権下で民間人初の防衛相(11代)に就任。



 米国の大学寮にいた頃、日本人の寮生は皆、寡黙だった。ところが、高校から米国留学していた日本人で、ほとんど意味のないことをぺらぺらとしゃべりまくる学生がいて、日本人仲間は「口先おとこ」「巧言令色鮮(すくな)し仁」とバカにしていたが、米国学生の中では妙に人気があった。米国人と通じるものがあったのかもしれない。

 日本には「沈黙は金なり」ということわざがあるが、米国人は「黙っているのは頭の中に何もないからだ」という。これを文化や価値観の違いと片づけるわけにはいかない。嘘でも3回以上同じことを聞くと本当かもしれないと思うようになるのは人の常である。

「鼻につく」近隣諸国の嘘宣伝


 最近、国際社会で日本の発信力の少なさが国益を損なっているとつくづく思う。尖閣問題、慰安婦問題、靖国問題、南京事件、どれをとっても近隣諸国はほとんど根拠のない論理を世界に広めている。日本人には「いずれは真実がわかる日が来る」などと無視するきらいがあるが、その間に国際社会で嘘が真実として通用する日が来る。いや、もう来ているのかもしれない。

 日本人の独り善がりの価値観はもはや、世界で通用しないのである。われわれは真実を謙虚な形でどんどんと対外発信する必要がある。遅れたけれど今からでも間に合う。かすかな救いは、最近、日本人の控えめな人柄の良さ、誠実さ、謙虚さがアジアをはじめ世界中で好感を以(もっ)て見られ始めていることである。

 これには近隣諸国の嘘宣伝や傲慢(ごうまん)さが鼻につくようになったこともあろう。今年の夏に行われた米国の世論調査によれば米国人の対日信頼度は極めて高く、アジアにおける米国の最も重要なパートナーは「日本」と答える人が1位になり「中国」と答える人より多かった。過去4年は中国が1位であったのが今年になって逆転したのである。

世界に広がる中国の三戦


米ジョージ・メイソン大学のキャンパスにある孔子像
 しかし、これに油断することは禁物である。中国が10年前に始めた孔子学院は今や海外で1千校以上になり、海外留学生も70万人(日本人は3万人)を超え、中国の三戦(世論戦・法律戦・心理戦)は世界中に広がっている。韓国も同様で、海外韓国人社会を動員して宣伝戦に専念しており、慰安婦像が米国だけでなく世界中に広がる恐れもある。

 日本はこんなまねをする必要は全くないが、日本の正しい本当の姿、魅力を世界にもっと発信しなければならない。東京オリンピックに来た外国人が日本の社会を見て「こんな国になりたい」「こんな国に住みたい」と思ってもらうような環境を準備することは、これからの大きな課題である。

 その前に、まず、やるべきことは日本を外国に発信する戦略拠点を設けることである。世界の主要都市に日本の伝統、文化、日本食、芸術、学術、先端技術、武術、ファッション、商品などを知って、日本を肌で感じてもらう場所を作ろうではないか。そこに行くと日本の香りと魅力を知ることのできるジャパンハウスをいくつかの主要都市に設置して、首相直轄の政策広報拠点とすべきである。

 そこにはいつも日本と日本人の良さを感じることのできる催しや実演、講演、日本料理、アニメ、映画、工芸、写真、ファッションなどがあり、日本をふんだんに満喫できる空間を作ることである。

政策広報予算の検証を


 その経営は現地の知日派・親日派に任せるというのも良い発想である。今や125万人を超える海外在留日本人や6万以上の拠点を持つ日本企業にも協力してほしい。この2年で50カ国を訪問している首相をはじめ閣僚や著名人や財界人には、その拠点に必ず立ち寄って、日本の対外広報に貢献してほしい。海外に旅行や出張する日本人も必ず立ち寄ってみたいと思うような場所にしておくべきである。

 要するに日本を世界に発信する戦略拠点を作り、日本が全体となって日本人の「おもてなし」の神髄を世界に発信しよう。まず、そのためのコンセプトを作り、具体策を発展させようではないか。

 もう1つは、この際、日本の海外発信をするための基本的戦略を官民財を挙げて早急に作り上げ、十分な政策広報予算を充当することである。この点だけは近隣諸国を見習う必要がある。

 すでに米国のシンクタンクには政策広報予算が相当流れているが、これも有効に使われているか検証する必要がある。今日、いかなる社会・国家でも最も重視される資質とは説明能力である。

 米国人のすごさは、それを小学生の時から鍛錬しているところにある。プレゼンテーションの能力が個人の能力の決め手になるからである。意味のないことを話す必要はないが、必要なことはしっかりと世界に発信できる人材の育成にもっと力を入れるべきである。

 ジャパンハウスの広がりがそれを増進できれば、日本の国力はさらに充実すること間違いない。