チャイナ・ウォッチャーの視点

岡本隆司(京都府立大学文学部教授)

 今年もはや暮れなんとしている。筆者の住む京都の清水寺では、毎年恒例の行事「今年の漢字」の発表があった。今年は「北」である。

 どうやら北朝鮮の脅威・危機が、主な理由らしい。今年の日本人にとって、「北」の問題がいかに重大だったか、を示して余りある。

 そのことに異を立てるつもりはない。けれども「北」ばかりでよいのか。へそ曲がりな筆者はニュースを見て、いささか疑問を禁じ得なかった。

 考察の端緒(いとぐち)として、今年の動向を整理してみよう。いうまでもなく最も危機が高まったのは、9月の米朝間の応酬だった。その直接の発端は、8月下旬の米韓合同軍事演習の前後あたりまで、さかのぼることができる。
(iStock)
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 8月21日にはじまった合同軍事演習は、その月末まで続いた。その間、北朝鮮がメディアを動員して演習を非難しつづけたのは通例のことながら、実際の行動にも出ている。

 同月26日に日本海に向け短距離弾道弾3発を、その三日後にも、日本上空を通過して太平洋に着弾する弾道弾を発射した。国連安保理はこれに対し、同じ29日、弾道弾を発射した北朝鮮を非難する議長声明を採択する。

 にもかかわらず、北朝鮮はわずかその数日後に、6回目の核実験を強行した。しかも「ICBMに搭載する水爆の実験に成功」したと発表したから、国際社会は騒然となったのである。

 核実験の翌日、9月4日に国連安保理は緊急会合を開いた。そのおよそ一週間後の11日、安保理は全会一致で北朝鮮に対する制裁決議を採択する。一週間かかったのは、厳重な制裁を主張する日米と、制裁に慎重な姿勢をくずさない中露との溝が埋まらなかったためであり、けっきょく前者が譲歩して、全会一致の決議にこぎつけた。

 北朝鮮の挑発は、その後もやまない。数日経った15日、北朝鮮はふたたび弾道弾を発射した。このミサイルは北海道上空を通過し、「襟裳岬東約2,200kmの太平洋上に着弾」したといい、その性能の向上、とりもなおさず脅威の増大を印象づけたものである。

 国連安保理は同日、ただちに緊急会合を開いて非難声明を出した。だが北朝鮮は動じず、18日に外務省報道官が談話を発表、アメリカが主導する対北朝鮮制裁に協調する国々を批判する。

 9月19日のトランプ大統領の国連演説は、それを受けておこなわれた。このまま事態の悪化がつづけば、「北朝鮮を完全に破壊するほか選択肢はない」と宣言したのである。「完全に破壊」というかつてない文言での警告だった。

 それに北朝鮮が強く反撥、激烈な威嚇の応酬となり、危機は最高潮に達す。しかし中国の制裁も強まったこともあって、北朝鮮はひとまず鳴りを潜めた。