武藤正敏(元駐韓大使)

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、9月3日の北朝鮮による水爆実験以降、北朝鮮に対する政策を明らかに変更した。文氏は8月17日、就任100日を迎えた日の記者会見で、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させ、これに核弾頭を搭載して兵器とすること」がレッドライン(越えてはならない一線)であると述べていたが、ICBMをはじめとする一連のミサイル発射に加え、水爆実験の成功によってレッドラインを越えたと判断したのであろう。

 文大統領は安倍晋三総理との電話会談で、「国際社会と連携して強力な報復措置を講じる考えであり、北朝鮮自らが対話のテーブルに出てくるまで、さらに強化していかなければならない」として圧力を軸に方向転換する考えを示した。

 こうした方針は韓国の軍事訓練や国防力強化方針に反映されている。

 韓国軍は9月4日、豊渓里(プンゲリ)核実験施設への攻撃を想定して陸軍の弾道ミサイル「玄武2A」(射程300キロ)と空軍の空対地ミサイルによる射撃訓練が行われた。また、15日のミサイル発射の際には地対地弾道ミサイルの訓練を行っている。
2017年4月、米韓両軍の統合火力訓練を見学する大統領候補時代の文在寅氏(右)=韓国北部の京畿道抱川(聯合=共同)
2017年4月、米韓両軍の統合火力訓練を見学する大統領候補時代の文在寅氏(右)=韓国北部の京畿道抱川(聯合=共同)
 9月4日、韓国政府は、在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)について追加配備を認めると決定し、7日、韓国軍の基地に発射台4基が搬入された。さらに国防相は国会において、12月1日に金正恩暗殺を担う斬首部隊の創設を表明し、予定通り発足した。

 これまで韓国の融和策が、北朝鮮に対する国際社会の圧力強化を損ない、特に中露を国際社会の連携に引き入れるのに障害とならないか懸念する向きもあった。文大統領の期待とは裏腹に北朝鮮が常に韓国の呼びかけを無視し、挑発行動を繰り返すことで、従来の融和策を見直さざるを得なくなったということであり、日米韓の連携は取りあえず強化されたといえよう。

 しかし、北朝鮮の核問題の出口は見当たらないのが現実である。そうした中、文氏は北朝鮮との対話の糸口も探っているかもしれない。何せ、文政権の中枢にいる人物は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で北朝鮮との交渉を担ってきた人々である。また、9月14日、統一部は北朝鮮の核実験後も国連児童基金(ユニセフ)や国連世界食糧計画(WFP)を通じ800万ドルの人道支援を検討していることを明らかにし、実施が決定された。菅義偉(よしひで)官房長官もこうした動きには懸念を示した。

 今後は文在寅政権の本質を理解しながら、対話を強化することで、韓国の単独行動を抑制し、日米韓の連携を強めていくことが肝要である。