田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 たまたまNHKを見ていて非常に懸念を抱いたニュースがあった。「来年度予算案 1100兆円の借金 財政の先行き一段と不透明に」という記事で、インターネットでも読める。

 簡単に要旨を書くと、政府予算案の規模が大きく、歳出が増加する一方で歳入では国債の発行額が3分の1を占めるのが問題と指摘する。そして、来年度末には国と地方を合わせた「借金」が1108兆円に上り、「先進国中最悪」になることに警鐘を鳴らすものである。報道は、このような財政状況が若い世代に将来不安をもたらしていると結んでいる。筆者から見れば、このようなNHKの報道こそが、財政状況へのゆがんだ認識を広めることで、若い世代に不安を与えていると思う。
東京都渋谷区のNHK放送センター
東京都渋谷区のNHK放送センター
 まず、どこがゆがんでいるのだろうか。それは政府の「1108兆円の借金」という見方である。単純に、日本の財政は借金=負債だけが存在するのではなく、資産も存在している。政府の持つ資産と負債を比較して、その上で事実上の「借金」を特定すべきである。負債の方が資産を上回っていれば、それを「純債務」と名付けよう。ただし、この純債務の大小だけがわかっても財政状況はまだ判断できない。だが、ここまでの議論を「政府のバランスシート問題」と名付けておく。

 たとえ借金の方が資産よりも多くても、将来それが返済可能であれば問題はない。つまり返済できる金額と返済しなければいけない金額を比較して、それがほどほどのバランスであればまず問題はない。以下ではこの点を「政府のバランスシート問題」の観点から検討する。

 政府の資産と負債を比較できるバランスシートを見る重要性は繰り返し指摘されてきている。今回のNHKニュースに代表されるような「政府の借金(負債)」の大きさだけに注目するのは全く妥当ではない。これでは国民が財政再建、増税路線、緊縮政策といった特定の政策に誘導されてしまうだろう。実際NHKニュースでも、いまのところ再来年に実施される消費増税が、教育無償化などに使われることよりも、むしろ国債償還という「借金」返済に使われるべきだとの趣旨として読むことができる。だが、そのような誘導はもちろん真実への誘導ではない。誤解への誘導である。