山田吉彦(東海大教授、国家基本問題研究所理事)

 連日のように北朝鮮船と思われる小型の木造漁船が、日本海沿岸に漂着している。その数は、過去最高の86隻となった。日本海沿岸部には、平成26年~平成28年の3年間で、176隻の小型木造漁船が漂着している。しかし、昨年までと今年の大きな違いは、生存者の数である。過去三年間で5人の生存者しかおらず、昨年は生存者が0であったのに対し、今年は42人が生存している。漂着した漁船の構造から推測すると、波の高さが3メートルにもなると転覆もしくは漂流の危険がある。エンジンルームに海水が浸入したならば、航行不能になるだろう。晩秋から冬にかけての日本海は、北西風の影響で、波高3メートルを超える日も多く、出漁中に事故にあった漁師が、生きて日本まで流れ着くのは奇跡に近い。今年の漂流者の中には、漁が目的ではなく、日本へ漂着することが目的である者が含まれていると考える。

 特に、青森県佐井村に漂着した漁船の中からは、普段漁師が漁船に持ち込むことがない靴底がつるつるの革靴や英文が書かれたジャケットなどが11月28日に発見されている。このことから、日本に漂着した後、上陸する目的であったと考えられる。すでに工作員が侵入している可能性も考慮しなければならないのだ。

北海道松前町沖に浮かぶ北朝鮮船。前方のプレートに
「朝鮮人民軍第854軍部隊」との表記があった
=2017年11月29日(共同通信社機から)
北海道松前町沖に浮かぶ北朝鮮船。前方のプレートに
「朝鮮人民軍第854軍部隊」との表記があった
=2017年11月29日(共同通信社機から)
 また、同日、北海道松前町の沖に浮かぶ無人島「松前小島」に10人の乗組員を乗せた漁船が漂着した。この船は、舵(かじ)の不調により1カ月ほど漂着したというが、乗員は、ほぼ健康体であった。船には「朝鮮人民軍第854軍部隊」と書かれた表示番が付けられ、船員は軍籍を示す船員手帳を所持していた。北朝鮮においては、漁師と軍人の境が曖昧なのかもしれないが、何らかの形で北朝鮮軍が関与していることは確実のようだ。

 しかも、島内の漁師小屋に侵入し、発電機や家電製品を奪い船内に積み込んでいた。舵が壊れた船が、自力で本国へ帰還することなどできようもないだろう。燃料が残っていたとも考えにくい。乗員の内、三人は窃盗の容疑で北海道警に逮捕されているが、逮捕時に激しく抵抗する映像が報道されている。屈強な北朝鮮人が、日本の領土を侵していたのだ。詳細な取り調べが望まれる。

 11月28日、能登半島沖に二隻の漁船は漂流していた。海上保安庁により、合わせて21人の乗組員が救助され、北朝鮮の船に引き渡されている。北朝鮮の小型漁船の影には、指示をする母船が控えているのである。松前小島の事例も母船が待機していた可能性がある。北朝鮮の国家ぐるみの密漁であり、さらに、覚せい剤取引や工作員の侵入を想定した警備が必要である。