冒頭に話題にした大川村は高知県北部に位置し、「土佐町」「本山町」「大豊町」と共に「嶺北」ブロックを構成する。実は今、この嶺北ブロックは高知県の他の6ブロックと比較して、人口に占める移住者の比率が最も高く、注目されているのである。移住者の多くは20代、30代の若者で、その比率は2%を超える。移住者が増えている理由はいくつかある。著名なブロガーであるイケダハヤト氏がこの嶺北ブロックに移住して、「まだ東京で消耗しているの?」と訴えている効果は大きい。

 地域の子供たちの教育に風穴を開けるべく採用された「地域おこし協力隊」が定着し、グローバルな仲間を集め始めたことも理由として挙げられる。地元高知大学が嶺北ブロックに派遣する「地域コーディネーター」が、クラウドファンディングなどの手法を活用して、地域の夢は実現することを実証した影響も顕著である。

 さらに、ここでしか作られていない伝統的な地域資源「碁石茶」の生産を支援するために域外から集まった多くの「親衛隊」が、この地域の魅力に誘引され、移住することになったのも理由の一つである。

 かれらは地域の魅力を「よそ者」の目で敏感に感じ取り、その価値を域内のみならず域外にも訴求し、持続可能な地域に変革しようとする「イノベーター」である。その周りには不思議と同じ臭いを感じさせる同志たちが地域の内外から集まってくる。

 限られたエリアである嶺北ブロック内で、それぞれのグループはやがてグループを超えた相互のネットワークを醸成する。イノベーターたちの集積は新たな結合(イノベーション)を生み出す「接触の利益」(野長瀬裕二『地域産業の活性化戦略』学文社)を最大化するのである。今、嶺北ブロックはイノベーターたちで溢(あふ)れ、その刺激的な感性は地域の人々を鼓舞している。

 統計学によると、n個の個体があれば、そのうちルートn個が平均とは異なる振る舞いをするという。例えば100個の集団では、そのうちルート100、すなわち10個が平均から外れる。この確率は100分の10で10パーセントとなる。400個の集団であれば同様に5パーセント、さらに集団が大きくなって100万になるとルート1000となり、その出現の確立は0.1パーセントになる。

 集団が大きくなるにつれて個性的な個体が発生する確率は小さくなり、やがてゼロに近づいていく。これを「平方根の法則」と言う。イノベーターとは母集団の平均的な振る舞いとは異なる、個性的で革新的な人材であると定義すると、その出現は母集団が小さいほど高い。今の嶺北ブロックを見ていると、地域外からの有為な人材の定着を含めて、小さなサイズでこそ成立する、個性的な集団としての姿が平方根の法則から浮かび上がる。人口減少に立ち向かう社会変革が必要な今、「変革は辺境の地から生まれる」予感がする。