元旦営業はもはや非常識? 三が日のコンビニは無人店舗が常識になる

『片山修』

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片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家)

 30年ほど前、正月といえば「元日休業」が普通だった。銀行にしろ、商店にしろ、大みそかのギリギリまで開いていた。だからというか、元日は休むのが普通だった。そう、「正月休み」である。ところが、流通業では、1990年代のコンビニエンスストアの普及以後「元日開業」が常識で、「元日休業」は非常識のような時代の空気があった。しかし近年逆転した。「元日休業」が常識で「元日開業」が非常識化しつつあるように思われる。では、なぜいま再び元日休業なのか。そこからは日本社会の構造の変化を読み取ることができる。

 実際、元日休業を掲げる企業は、増えている。元来、都内の百貨店で元日に営業するのは、そごう・西武やグランデュオなどに過ぎない。高島屋や松屋、松坂屋、東武などの多くの百貨店は2日から営業。三越伊勢丹の店舗の多くは3日開業だ。
2017年1月1日、西武池袋本店の初売りで福袋を買い求める人たち。百貨店大手4社は、平成29年の初売りがおおむね好調だったと発表した
 家電量販業界でも、とっくに元日休業が広がっている。2008年、ヤマダ電機が業界に先駆けて元日休業を掲げると、ケーズデンキも続いた。この動きは今年、一部のコンビニや外食産業でも広がった。北海道を中心に約1190店舗を展開する「セイコーマート」の運営会社セコマは昨年、元日に42店舗で休業したのに続き、今年は全体の半数以上の約640店舗で休業した。

 ロイヤルホールディングス(HD)は、ニーズの高い立地条件の店舗は除いたものの、展開する「ロイヤルホスト」「天丼てんや」「カウボーイ家族」の約9割で元日休業した。大戸屋HDもまた、「大戸屋ごはん処」の直営店の約半数にあたる80店舗で、昨年の大みそかと今年の元日を休業した。テンアライドでも「旬鮮酒場天狗(てんぐ)」などの全店舗で昨年の大みそかを休業した。

 元日休業が広がった背景には、二つの理由がある。一つは深刻な人手不足だ。少子高齢化社会、労働人口減少社会を迎え、人手不足が深刻化する現代において、従来の方法で24時間年中無休のサービスを競うのは、もはや時代遅れだ。社会の変化に合った、賢い外食や流通の在り方を考えるべき時に来ているのではないか。

 だからといって消費者にしてみれば、コンビニや外食店は24時間365日営業しているに越したことはない。しかし、都市部はともかく、セイコーマートのような地方のコンビニや外食店は、もともと深夜の時間帯は需要が少ない。しかも、深夜や祝日などには従業員の時給が上乗せされる。消費者のニーズが少なく、稼げない時間帯に、高い人件費を支払って営業したのでは割に合わない。
ヤマダ電機創業者が語る「元日休業」のワケ

 「あいててよかった…」のコマーシャルでおなじみのコンビニにならって、スーパーやファミリーレストランもまた、24時間営業や深夜営業、年中無休を行うようになった。しかし、今や平日の昼間でさえ、パートやアルバイトの人手確保に苦労している。

 元日休業が広がった背景の二つ目は、「従業員満足度」すなわち「働き方改革」である。実は、三越伊勢丹HDの大西洋前社長は16年、多くの百貨店が2日に初売りを行う中で、首都圏店舗を中心に初売りを3日とした。そして18年の正月は3が日を休業とし、4日からの営業を検討していた。休日が増加すれば、従業員の意欲向上、引いては顧客へのサービス向上につながると考えたためだ。しかし、実現しなかった。

2017年5月、新製品発表会で船井電機の船越秀明社長(右)と握手する
ヤマダ電機の山田昇会長(左)
 かつて、ヤマダ電機創業者の山田昇会長にインタビューした際、次のように語っていたのが印象的だった。

「元日を休みにできるのは、うちにそれだけの体力があるからです。全店舗が1日休めば、150億円の減収、その利益分は社員2万人分のボーナス分に相当する。それでも休みにしたんです。流通業は、会社への帰属意識が低いといわれます。対策として、従業員満足度を高めることが重要です。『勤めてよかった、自分の子どもにも勤めさせてあげたい』と思われるような会社にするためには、職場環境づくりが大事なんです」

 元日休業は、従業員満足度を高め、帰属意識を強めて離職率を下げるための、一つの旗印にはなる。しかし、実現するためには、機会損失を許容できる体力、もしくは補填(ほてん)するための策が求められるわけだ。

 ただでさえ、日本のサービス産業の生産性は低い。日本生産性本部の調べによると、わが国の労働生産性は製造業で米国の7割であるのに対して、サービス産業では5割に過ぎず、むしろ格差が年々拡大しているのが現状だ。それだけに、サービス産業の従業員のモチベーションの向上は急務である。

 では、どうすればいいのか。人手不足を解消するロボット、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)などの先進技術を活用したサービスが開発され、実証実験が進んでいる。

 例えば、JR東日本は昨年11月、大宮駅で無人店舗の実証実験を行った。客は、入り口に設置されたゲートに「Suica」などICカードをかざして入店する。店内には約130種類の商品が並んでおり、欲しい商品を棚から取るだけでよい。出口に設置されたディスプレーに商品名と合計金額が表示されるので、それを確認し、「Suica」で決済する。AIがカメラを通じて商品を手に取った人を特定し、金額を計算する仕組みだ。
「元日休業」に追い込むネット通販の力

 このほか、パナソニックはローソンと提携して「レジロボ」を開発し、実証実験を行っている。実験店舗では、商品一つ一つに電子タグがとりつけられている。客が商品を専用のカゴに入れてレジに置くと、「レジロボ」がカゴの中の商品を自動で清算し、袋詰めする。また、ローソンは今年春、深夜から早朝の時間帯のレジ業務をなくす実験店舗を設置する計画だ。来店者はスマートフォンのアプリを使い、自分で商品のバーコードを読み取って決済する。
2017年12月、ローソンの実験施設「ローソンイノベーションラボ」を報道陣に公開する竹増貞信社長
 これらは、棚卸し作業などがあるために、まだ完全無人化は実現していない。しかし、人手不足解消の手段として今後、有望であることに変わりない。近い将来、正月3が日にコンビニが無人になる日がくるかもしれない。

 外食店でも、ロイヤルHDは支払いをクレジットカードと電子マネーに限る実験店舗を設けた。レジ締めの作業短縮など人の負担を軽減するためである。

 百貨店や家電量販店においても、カギを握るのは、EC(Eコマース、電子商取引)サイト経由の注文を増やすなど、やはりIT化だろう。アマゾンや楽天、ゾゾタウンといったネット通販が急速に台頭する中、厳しい戦いを強いられている。Eコマースを拡大しているが、まだネット通販大手に対しては劣勢だ。店舗を持つ強みを生かしたマーケティングにより、ネット通販大手に負けない価値を提供すると同時に、店舗や倉庫、物流のIT化やロボティクス(ロボット工学)活用によって、さらなる効率化を図ることが求められる。

 近年、インターネットやスマホの普及にともなって、消費行動の構造変化や流通ルートの変化が起きている。総務省の調査によると、2人以上の世帯においてネットショッピングを利用する世帯の割合は、02年にわずか5・3%だったが、その後、年々増え続けて16年には27・8%に達した。つまり、消費行動はリアル店舗での購買からネットショッピングに確実に移っている。したがって、「元日開業」の必要性は明らかに落ちているのだ。

 百貨店や家電量販店などに求められるのは、消費者に、より便利により楽しい買い物体験を提供することだ。例えば、それがECサイトで実現するならば、必ずしも正月3が日に営業せずとも、消費者を満足させることが可能なのである。

 人手不足や「働き方改革」の流れを、ネガティブにとらえるのではなく、より効率的で便利なサービスを生み出す力へと転換することが求められている。元日休業の是非を問うことは、企業や消費者が、どこまで賢くなれるかを問うことでもある。

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