「安倍一強」はいつまで続くか、運命の岐路は3月の日銀総裁人事だ

『倉山満』

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倉山満(憲政史家)
 謹賀新年。編集部より、御屠蘇(おとそ)気分で、今年の政局を予想せよとの意向である。自慢ではないが、私は予想というものを外したことがない。なぜならば、いついかなる時も「わからない」と答えているからだ。予想をしたことがないのだから、外しようがないのである。今回は主義に反して予想をせよとのお達しだが、筋を曲げるわけにはいかない。そこで妥協案として、思考実験をしてみたいと思う。初夢と思っていただければ結構。

 さて、現状の日本政治はどのような状況か。言うまでもなく、安倍内閣が長期政権化している。一部の論者は「永久政権」のごとく予想している。では、なぜ安倍内閣が長期政権化しているのか。簡単である。ひとえに、黒田東彦日銀総裁のおかげである。

 安倍晋三首相は野党時代に、当時の白川方明日銀総裁の金融政策に変更を迫ると宣言した。世論はこれを熱狂的に支持し、ついに白川総裁を辞任に追い込んだ。その後、黒田総裁と岩田規久男副総裁を日銀に送り込み、「アベノミクス」と称される景気回復政策を実行した。アベノミクスの中身は簡単で、「インフレ率2%になるまで通貨を増刷する」である。二十年に及ぶデフレは、生産量に比して極端に通貨供給量が少ないことが原因だ。だから、通過を増刷するとデフレからインフレ傾向に移り、景気は回復していく。それが安倍「一強」へとつながっていく。

 すなわち、「日銀が増刷する→株価が上がる→支持率が上がる→選挙に勝てる→与党の誰も安倍首相を引きずり下ろそうとしない」というメカニズムだ。

 そして今年2018年4月、黒田総裁と岩田副総裁の任期が切れる。今後、安倍首相が何かをなしえるのか。それとも何もなしえず野垂れ死にするか。すべては3月に提示される予定の日銀正副総裁人事にかかっているのである。
大規模金融緩和について講演する日銀の黒田東彦総裁=2017年12月7日、東京都千代田区(共同)
 では、小説風初夢の御開帳。

 元旦、安倍晋三は決意していた。
「自分が内閣総理大臣として、この手で戦後レジームから脱却する。それは単に自主憲法制定や自主防衛にとどまらない。それでは敗戦国でなくなっただけだ。真の意味で日本を取り戻すとは…いつの日本を取り戻すのか。大国に戻って初めて、日本を取り戻したと言えるのだ。そう。安倍内閣は、大日本帝国を復活した政権であるとして、歴史に名を残すのだ」と。

 現在、自民党に対抗できる野党はいない。むしろ立憲民主党が野党第一党でいてくれる限り、あいつらが相手なら何回選挙をやっても圧勝できるだろう。連中が「モリカケ」を騒げば騒ぐほど、国民は立憲民主党にだけは政権を渡してはならないと肝に銘じるだろう。大衆は本質を見抜いている。立憲民主党は「ザル」だと。

 選挙で勝てる、つまり自分たちが当選できる以上、自民党の議員は自分に逆らわない。自民党議員とはそういう生き物だ。

 これまでの5年間、大体において高支持率を維持してきた。消費税8%増税の悪影響が景気回復を妨げているが、蛇行運転ながらもアベノミクスは維持している。思えば、黒田総裁の「ハロウィン緩和」にも助けられたし、10%の増税は延期し続けている。
安倍首相に浮かぶ「妙案」

 今後も政権と景気回復を維持するには、日銀正副総裁人事は天王山だ。日銀の意思決定は、総裁、2人の副総裁、6人の委員からなる日銀政策決定委員会で行われる。今のところ、9人の委員全員がアベノミクスに賛成だ。今のところ、つまり私の政権が強いうちは…。

 かの小泉純一郎総理も、退陣が決まった瞬間に当時の福井俊彦日銀総裁に裏切られ、景気回復に水を差された。結果、「失われた10年」が「20年」に伸びる遠因となった。

 今回、裏切る可能性があるのは…?安倍は、任期切れの3人の顔を、経歴と共に思い出してみる。

総 裁:黒田東彦  財務省枠。ただし、事務次官経験者ではない。

副総裁:中曽 宏  日銀枠。彼に意思はない。政権が強ければ政権に、日銀が強ければ日銀に従う。麻生太郎副総理兼財務大臣が「日銀プロパーを一人も入れないのは、日銀の士気が下がる」と強硬に主張し、妥協した。

副総裁:岩田規久男 学者枠。いわゆるリフレ派。アベノミクスの理論的支柱。最近は病気がちで、もう5年の続投は難しい。

 安倍は、とつおいつ考えつつも、夕日が差し込む頃、閃光のように脳裏に妙案が浮かんだ。

 「いこう。これしかない」。安倍は誰もいない自室で早口でつぶやいていた。
衆院予算委員会で、自民党の菅原一秀氏の質問を聞く安倍晋三首相=2017年11月27日午前、国会・衆院第1委員室(斎藤良雄撮影)
 「総裁は黒田さんの続投しかない。本来ならば、日銀総裁は財務次官出身者と日銀プロパーが交互に就いてきた。いわゆる“たすきがけ人事”だ。しかし、安倍内閣では従来の役所のわけの分からない慣例は認めない。日銀人事は政権の生命線のみならず、国民経済の命綱だ。中曽さんには悪いが、日銀には15年もデフレを放置した前科がある。中曽さんに限らず、日銀のわけの分からない人間に生殺与奪の権を渡したあげくの、小泉さんの二の舞は御免だ」

 安倍はライオンのように部屋の中央を歩き回っている。

 「人物本位で言うと、内閣参与を務め、今も私の知恵袋となっている本田悦朗スイス大使は余人を以って代えがたい。ぜひ、日銀に欲しい。ただし、それだと財務省出身者が二人となる。そこをどう乗り越えるか」

 「岩田副総裁は残念だが、健康の問題では引き留める訳にはいかない。では学者枠は? いいっそ静岡大学教授の経験もある本田氏を学者枠で…」

 「日銀枠は中曽さん。あるいは、アベノミクスに面従腹背のA日銀理事、あるいはU支店長あたりを送り込んでくるか。獅子身中に虫を抱えることには変わりない…」
 と、そこまで考えをめぐらして、安倍は「いこう。これしかない」とつぶやき、
そして閃(ひらめ)きを忘れまいと書斎のレターセットに万年筆で書きつける。

総 裁:黒田東彦(続投) 日銀枠

副総裁:本田悦朗(新規) 財務省枠

副総裁:原田 泰(昇格) 学者枠

 「どうだ!」。誰もいない部屋で誰に向かって言っているのか、自信ありげな独り言が安倍の口から自然と漏れた。

 「黒田さんは現職総裁なのだから日銀枠。本田さんは財務省の金融専門家。岩田さんの空いた枠には同じリフレ派の原田さんを昇格。原田さんの後には、リフレ派のエコノミストを据えれば、鉄壁の布陣が出来上がる!」
強兵の前に「富国」がある

 その夜。安倍はある財務官僚を密かに呼び出し、腹案を見せた。
 「どう思う?」。一瞬の静寂が空気を支配する。が、男は、ポーカーフェイスと呼ぶには愛想のない、官僚にありがちな典型的な“秀才顔”で答える。
 「総理大臣の権力を示す、ですか」
 
 安倍もポーカーフェイスで返す。
 「そうだ」
 
 自分が何のために呼ばれたかを理解した財務官僚は無表情を崩さず答える。
 「結構です。省内は私がまとめましょう」

 物腰柔らかで慇懃(いんぎん)だが、言葉の端々に威圧感があり、真の力関係を忘れさせまいとする財務官僚特有の口調だ。だが、小泉内閣以来約15年。安倍がここまでの決断を見せるとは。

 「○○さん。私は、日本を誰にも媚びないで、自分の力で生きていける強い国にしたいんですよ」

 「総理。私も同じ思いです。立場上、私も増税の旗振り役をしていますが、本音ではおかしいと思っている。増税ありきで経済も、国家すらも後回しにする今の財務省は戦前戦中の陸軍と同じです。今、日本は世界史的転換点にいるにもかかわらず」

 「アメリカのトランプ大統領は、直にGDP2%、毎年防衛費5兆円増額を求めてくる。しかし、それくらいなんだ。中国、ロシアはそれ以上に軍拡している。あまつさえ北朝鮮さえ核武装している。自分の国は自分で守る。そんな当たり前のことをやるにも、財源がいる。そのためには経済成長だ。景気回復前に増税しては、成長はない」

 「おっしゃる通り」

 「この日銀人事、そして景気回復は一里塚だ」

 「ご協力いたしましょう」

 この財務官僚は、机に顔を伏しながら考えていた。安倍腹案が世に出れば、日銀はひっくり返るだろう。この案が通れば、財務官僚の何人かは責任を取らされる。血の雨が降るだろう。

閣議に臨む安倍晋三首相(中央)
=2017年11月21日、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 しかし、日本が大国に戻る。大日本帝国復活。その大義の前に、その程度の犠牲など物の数ではない。別に、物理的に死ぬわけでもない。逆に安倍首相の政治力が弱ければ、政権即死につながりかねない。それならそれでそれも運命か。

 憲法改正も政治日程に入ってくる。
 果たして、生き残るのはどちらか…。

 小説風初夢は以上。新春だ。どうせ夢を見るなら、これくらいでいかがか。今年の重要な政治日程は、3月の日銀人事、9月の自民党総裁選、11月のアメリカ中間選挙だ。今後も安倍政権が続くのか、景気はどうなるのか。憲法改正など、その先の話だ。しかし、日銀人事に勝てば、戦後レジーム脱却は見えてくる。
 
 安倍内閣が続くことがよいのか。ただ続くだけならば意味がない。何かをなして初めて政権の意味がある。

 大日本帝国復活。強兵の前に、富国がある。
 果たして、未来への意思やいかに。


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