今後も政権と景気回復を維持するには、日銀正副総裁人事は天王山だ。日銀の意思決定は、総裁、2人の副総裁、6人の委員からなる日銀政策決定委員会で行われる。今のところ、9人の委員全員がアベノミクスに賛成だ。今のところ、つまり私の政権が強いうちは…。

 かの小泉純一郎総理も、退陣が決まった瞬間に当時の福井俊彦日銀総裁に裏切られ、景気回復に水を差された。結果、「失われた10年」が「20年」に伸びる遠因となった。

 今回、裏切る可能性があるのは…?安倍は、任期切れの3人の顔を、経歴と共に思い出してみる。

総 裁:黒田東彦  財務省枠。ただし、事務次官経験者ではない。

副総裁:中曽 宏  日銀枠。彼に意思はない。政権が強ければ政権に、日銀が強ければ日銀に従う。麻生太郎副総理兼財務大臣が「日銀プロパーを一人も入れないのは、日銀の士気が下がる」と強硬に主張し、妥協した。

副総裁:岩田規久男 学者枠。いわゆるリフレ派。アベノミクスの理論的支柱。最近は病気がちで、もう5年の続投は難しい。

 安倍は、とつおいつ考えつつも、夕日が差し込む頃、閃光のように脳裏に妙案が浮かんだ。

 「いこう。これしかない」。安倍は誰もいない自室で早口でつぶやいていた。
衆院予算委員会で、自民党の菅原一秀氏の質問を聞く安倍晋三首相=11月27日午前、国会・衆院第1委員室(斎藤良雄撮影)
衆院予算委員会で、自民党の菅原一秀氏の質問を聞く安倍晋三首相=2017年11月27日午前、国会・衆院第1委員室(斎藤良雄撮影)
 「総裁は黒田さんの続投しかない。本来ならば、日銀総裁は財務次官出身者と日銀プロパーが交互に就いてきた。いわゆる“たすきがけ人事”だ。しかし、安倍内閣では従来の役所のわけの分からない慣例は認めない。日銀人事は政権の生命線のみならず、国民経済の命綱だ。中曽さんには悪いが、日銀には15年もデフレを放置した前科がある。中曽さんに限らず、日銀のわけの分からない人間に生殺与奪の権を渡したあげくの、小泉さんの二の舞は御免だ」

 安倍はライオンのように部屋の中央を歩き回っている。

 「人物本位で言うと、内閣参与を務め、今も私の知恵袋となっている本田悦朗スイス大使は余人を以って代えがたい。ぜひ、日銀に欲しい。ただし、それだと財務省出身者が二人となる。そこをどう乗り越えるか」

 「岩田副総裁は残念だが、健康の問題では引き留める訳にはいかない。では学者枠は? いいっそ静岡大学教授の経験もある本田氏を学者枠で…」

 「日銀枠は中曽さん。あるいは、アベノミクスに面従腹背のA日銀理事、あるいはU支店長あたりを送り込んでくるか。獅子身中に虫を抱えることには変わりない…」
 と、そこまで考えをめぐらして、安倍は「いこう。これしかない」とつぶやき、
そして閃(ひらめ)きを忘れまいと書斎のレターセットに万年筆で書きつける。

総 裁:黒田東彦(続投) 日銀枠

副総裁:本田悦朗(新規) 財務省枠

副総裁:原田 泰(昇格) 学者枠

 「どうだ!」。誰もいない部屋で誰に向かって言っているのか、自信ありげな独り言が安倍の口から自然と漏れた。

 「黒田さんは現職総裁なのだから日銀枠。本田さんは財務省の金融専門家。岩田さんの空いた枠には同じリフレ派の原田さんを昇格。原田さんの後には、リフレ派のエコノミストを据えれば、鉄壁の布陣が出来上がる!」