正月営業の見直しを「働き方改革」と称賛するメディアの罪

『常見陽平』

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常見陽平(千葉商科大学国際教養学部専任講師)

 デパートなど小売業や外食業で、年末年始営業の見直しが話題になっている。いち早く三越伊勢丹ホールディングス(HD)などが取り組みを始めている。ファミリーレストランや、コンビニエンスストアでもこのような取り組みが散見される。さらには、24時間営業の見直しも行われている。

 これらの取り組みは「働き方改革」文脈でメディアに露出する。しかし、これをいかにも従業員に優しい取り組みとして紹介するメディアは罪であり、ミスリードである。その真因にこそ、日本の消費と労働の絶望がある。

 特に百貨店の年末年始営業は「働き方改革」文脈だけでは説明できない。ネット通販の台頭、ショッピングモールのアパレル領域の強化、ブランドの路面店拡大などの外部環境の変化もあり、百貨店は、業界そのものの存在意義が問われている。

 消費喚起策にしても、年末年始の前からハロウィーン、クリスマスと続いている上、ブラックフライデー、サイバーマンデーなど新手のイベントも現れている。ネット通販会社も年に何度もセールをやっている。さらには、ファミリーセールだってある。ブランドによっては、早期型のプライベートセールを実施するところもある。わざわざ正月にデパートに出掛ける必要はないのである。
ブラックフライデーにちなんだセールが始まり、混雑するイオンスタイル品川シーサイド店の野菜売り場=2017年11月23日未明、東京都品川区
 人手不足も深刻だ。百貨店ではお歳暮シーズンも含め、アルバイトの確保が困難である。別にこれは労働者に優しい施策であるとは限らず、労働者を採れないという話なのである。もちろん、この手の取り組みは、業態や地域による違いも出ることだろう。ただ、購買手段も、消費喚起策も多様化する中、また、かつて百貨店を利用していた層の高齢化も進む中、年末年始の営業自体の意義が問われているのではないか。

 ただ、これを「働き方改革」の先進的な取り組みとして取り上げるのは、やや違和感がある。これは「サービスレベルを見直そう」という意味では正しい。ただ、従業員のためを思った施策というよりは環境の変化による、やむを得ない対応という側面が強いのではないか。

 メディアで「働き方改革」の報道を見かけるたびに、脱力してしまうことがある。「それは、働き方改革と呼べるのか?」という疑問である。

 始まったばかりの取り組みをあたかも成果が出ているかのように取り上げているものも散見される。社内で賛否両論を呼んでいるがゆえに、メディアにリークをすることにより、世論を味方につけて流れを変えようとした取り組みもある。IT企業や、人材ビジネス企業では、取り組みを事例化し、自社の営業ツールに使っている例も散見される。
流行語大賞の場で感じた百貨店の意義

 もちろん、それでも働き方改革が進むなら良いのではないかという声もある。しかし、これは改革の目的化だ。働き方改革は、仕事の絶対量や任せ方、クオリティーを見直さずやりくりしているという普遍的・根本的矛盾を孕(はら)んでいる。かえってこの取り組みが、「働き方改革疲れ」を起こさないか、サービス残業を誘発しないかという視点を持っておくべきである。

 働き方改革を進める上で、うまく進むパターンについて考えた1年だった。身も蓋もない例の一つが「困っていること」である。売り手市場である上、若者が減っていくという「採用氷河期」である。さらに企業によっては「ブラック企業」イメージがついており、求職者が応募してこないというケースもある。業界、地域、企業規模、職種などの条件によっても、採用は困難となる。地方の中堅・中小企業は常に採用に困っている。IT企業においては、エンジニアの獲得は困難であり続けている。

 このように、決定的に困っている場合に人材マネジメントは変化する。なんとしても、人材を獲得し定着させるための試行錯誤が促されるのである。年末年始営業に関連して、今考えるべきことは、サービス業全般で人手不足をどう解決していくかということだろう。困っているがゆえの改革案を期待したい。

 話を百貨店の年末年始営業に戻そう。そういえば、筆者は先日、「ユーキャン新語・流行語大賞」の授賞式とパーティーに出席した。『現代用語の基礎知識』の執筆者として招待された。私が担当したページから「プレミアムフライデー」がベストテン入りした。もっとも、好意的な文脈ではなく、バブル期の「ハナモク」のように定着するのかというような、ネガティブな文脈だった。

 受賞者は経団連副会長の三越伊勢丹HD特別顧問の石塚邦雄氏だった。いわば、ほめ殺し的、つるし上げ的な受賞にもかかわらず、授賞式にやってきた点はあっぱれである。そう、流行語大賞は否定的なトーンで取り上げる言葉もあり、必ずしも受賞者が会場に現れないのだ。
2017年12月、「ユーキャン新語・流行語大賞」表彰式の記念撮影におさまる受賞者ら。前列右端は「プレミアムフライデー」で受賞した三越伊勢丹HDの石塚邦雄特別顧問(松本健吾撮影)
 もっとも、その場でもプレミアムフライデーについて今後、盛り上げていくというコメントをしていたものの、具体策は乏しかった。いまだに三越伊勢丹HDの特別顧問をしているのなら、自社の宣伝をかねてどさくさに紛れて、こんなことをやっているとアピールすればよかったのではないか。やや論理の飛躍のようだが、ここでも百貨店の存在意義を考えてしまった。手詰まり感があるのだ。インバウンド観光客による需要などもあるものの、逆にこれがなかったらと思うとゾッとする。

 年末年始営業の件を「働き方改革万歳」的なトーンで総括してはならない。これは消費喚起策と、人手不足の解決がうまく進んでいないことの証拠なのではないか。

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