実際に、正月三が日を休みにしたことで客から、「元旦から営業しないなんて、どういうことだ」というクレームが来た企業がありました。これに対しての店側の回答がネットでも話題となりました。

 店側の回答のポイントは2つあって、
(1)三が日以外は毎日営業しているので、せめて三が日くらいは全従業員を家族の元でゆっくりと休ませ、エネルギーを充電して新しい年に向けて全力で頑張ってもらいたいから。
(2)自分たちが元旦営業をしていると、メーカーや商品を納入する物流会社の人たちも休めないから。

 客を大切には思っているが、同じように、従業員やメーカーなど共に働いている人たちも休ませてあげたいという思いやりの心が伝わる文面であり、確かにその通りだと思いました。

 もともと日本では、お盆と正月には、商家で住み込みで働いている丁稚(でっち)や女中も休みをもらい、実家に帰り、家族とゆっくりするという習わしがあります。普段は粗食でも、正月には美味しいものをお腹いっぱい食べられるので、子供たちも正月を心待ちにしていました。また、正月の三が日に食べる「おせち料理」は、いつも忙しく働いている主婦が三が日だけは台所に立たなくてもいいように、保存の利く食材が中心になっています。

鳥居に注連飾りを取り付け、迎春の準備をする神職
=2016年12月25日、鳥取市の長田神社
鳥居に注連飾りを取り付け、迎春の準備をする神職 =2016年12月25日、鳥取市の長田神社
 働き者の日本人にとって、正月三が日は唯一、誰もが大手を振って休める休日であり、一年で最も楽しみで幸せな日だったのです。普段着ない晴れ着を着たり、神聖な食べ物である餅や赤飯を食べ、24時間お酒を飲んで酔っ払っていても誰にも文句を言われない。その風習は、日本の文化でもあります。

 日本人には、「ハレ(晴れ)」と「ケ(褻)」という伝統的な考え方があります。正月は、この「ハレ」にあたり、普段の生活は「ケ」にあたります。「ハレ」の日は、休んだり楽しんだり遊んだりして、「ケ」の日はしっかりと働く。それは、日本人が生活の中で編み出したメリハリでもあります。

 けれど、正月でも休みなく働く人がたくさんいて、おせち料理なども作り置きしなくても元旦でもスーパーで買えるとなれば、こうしたメリハリはどんどんなくなっていくことでしょう。

 「1つのスーパーが三が日営業するためには、そこで働く人以外に、多くのメーカー、納入業者が働かなくてはならない。それは、ちょっと気の毒だ」。ひと昔前の日本人は、こうしたことを想像する力を持っていたような気がします。

 元旦に店が開いていないからとクレームをつける人には、こうした相手に対する思いやりと想像力が欠如している気がしてならないのは筆者だけでしょうか。