門田隆将(ノンフィクション作家)


 なぜ今年の日本シリーズは、これほどの感動をもたらしたのだろうか。7戦目までもつれこんで、王者巨人を3対0で破り、球団創設9年目の初優勝を遂げた楽天の歓喜が爆発するシーンを、私は瞬きもせず、見つめていた。

 長く野球を見ているが、日本シリーズでこれほど感動した優勝は、記憶にない。前日、160球を投げて敗れた田中将大が9回のマウンドに上がった時、テレビで野球解説をしていた古田敦也、工藤公康の両氏も絶句していた。ポストシーズンも含めて、昨年からの連勝日本記録を「30」でストップされた田中。その田中がパンパンに張った肩をものともせず、マウンドに上がったのである。

 田中の将来を考えれば、あり得ない采配であり、野球の本場・メジャーから見れば、“クレイジー”な登板である。だが、試合後の星野監督のインタビューでそれが田中自身の「志願」であったことが明らかになった。
日本シリーズ第7戦で優勝し胴上げされる楽天・星野仙一監督(当時)=2013年11月 
日本シリーズ第7戦で優勝し胴上げされる楽天・星野仙一監督(当時)=2013年11月 
 「どうしたって、田中が“行く”と。彼がいたから(楽天は)日本シリーズに出れたわけですから。最後は彼に託しました」と、星野監督が“内幕”を吐露したのだ。

 こうして「あり得ないシーン」が現実に目の前で繰り広げられたのである。来年はメジャーに進むだろう田中の闘志と、ファンの必死の思いが共鳴して、最終回は異様な空気となった。それが、テレビの画面からも見てとれた。そして、うねりのような東北の応援の声が、田中の背中を押し、鬼のような気迫で、ついに巨人をねじ伏せた。球史に残るシーンだった。

 私は、田中将大投手を駒大苫小牧時代に取材したことがある。それは、拙著『甲子園の奇跡』(講談社文庫)に収められているが、彼にとっては、史上2校目の夏の甲子園3連覇を早稲田実業の斎藤佑樹投手に阻止された失意の頃だった。

 遠く北海道の苫小牧まで赴き、田中にインタビューした私は、寡黙ながら秘めた闘志のこの青年の将来が気になった。あの時点で“ハンカチ王子”斎藤佑樹投手に水を開けられていた田中は、「絶対に負けない」という闘志で精進をつづけ、押しも押されもしない“日本のエース”となった。来年は、田中の「師匠」でもあるダルビッシュ有とメジャーで投げ合うだろう。二人の実力は、そのままメジャーのトップを争うものになるに違いない。