家庭内暴力については、個人的にもトラウマ(心的外傷)に似た経験を持っている。筆者の幼少のころに母親、そして筆者自身も、父親の苛烈な家庭内暴力に見舞われていた。詳細は控えるが、父親からの加害によって母親は生涯、片足に障害を負ってしまった。冬場になると古傷が痛むらしく、よく足を引きずるようにしていたのを思い出す。今は両親ともに鬼籍に入っているが、家庭内暴力は筆者にとっても無縁の出来事ではないのだ。
(iStock)
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 内閣府の統計によると、全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は年間で10万件を超えている。ものすごい件数である。アンケートでは、配偶者(事実婚や別居中の夫婦、元配偶者も含む)から「身体的暴行」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれかを一つでも受けたことがある人の数は、女性では20%以上、男性は16%ほどにものぼるという。

 相談件数自体も驚くほど多いが、ほぼ一貫して件数などが上昇傾向にあることは見逃すべきではないだろう。もちろん他のアプローチも存在するが、家庭内暴力を経済学の視点からどう考えるべきか。それは一種の「隠れた貧困」と考えるべきかもしれない。

 貧困といえば、満足な栄養や最低限の所得に欠けるような「絶対的貧困」、社会の一定割合を貧困状態であるとみなす「相対的貧困」など、多様な貧困の基準がある。

 最近、日本の貧困研究の第一人者である日本女子大学名誉教授の岩田正美氏が『貧困の戦後史』(筑摩書房)を出版した。同書では、幼児の虐待死や未受診・飛び込み出産を「『かたち』になっていない貧困」と定義して分析している。「かたち」になっていない貧困とは、貧困として社会的な注目の濃度にまだ乏しいが、実体は貧困に起因するものであるという視点だ。生活保護から閉ざされるなど経済的な制約のために、児童への虐待が見られるという可能性を岩田氏は指摘している。

 現時点の経済学の成果をみると、家庭内暴力も経済的な要因が無視できないほど大きい。ブラウン大のアナ・エイザー教授は家庭内暴力の経済学を積極的に公表している。その中で、エイザー氏は男女間の賃金ギャップに注目している。この男女間の賃金ギャップが縮小するほど家庭内暴力が減少していくという。つまり、労働報酬で男女間の賃金ギャップが少なくなれば、家庭の中での女性パートナーの交渉力が増し、それにより家庭内暴力が減って女性の健康が促進されていくというのである。