小俣一平(武蔵野大学客員教授、元NHK社会部記者)

 1982年にNHK鹿児島放送局から東京・渋谷の社会部に異動になってから13年間、NHK研修センターの講師に、また95年には、1カ月間新人記者たちにつきっきりで取材の手法を教える特別講師になった。そのとき教えたことの一つに「サボりの勧め」があった。「サボる」というと何かズルをしているような響きがあるが、これは自己による「事故」管理である。

 実際に裁判所や検察庁を取材する司法記者時代や自由に取材して回る遊軍記者時代でも、さらにキャップや局内のデスク、報道統括(社会部のニュース責任者)になってからも、堂々と「サボり」を勧めてきた。「隗(かい)より始めよ」とばかり、ポケットベルを切り、率先して都内の銭湯や温泉でひととき休憩を取ってきた。リクルート事件の真っ最中でも、今はなき新宿の十二社温泉に大勢の後輩記者たちと共に風呂に入り、大座敷で昼寝して帰った。手元に95年に入局し、地方局で新米としてスタートしたばかりの記者たち全員に出した暑中見舞いが残っている。

東京・渋谷のNHK放送センター=2015年7月(吉澤良太撮影)
東京・渋谷のNHK放送センター=2015年7月(吉澤良太撮影)

(前略)気になるのは皆やる気十分な余りハイペースで飛ばしすぎて、疲れがピークに達しているように見受けられることです。これまでは何もかもが初めての体験で、おもしろくて仕方ないうえ、緊張感と若さでどうにか体力も持ってきたと思います。しかしこの連日の猛暑で、体調を壊す人が出てくるやも知れません。自分のコンディションにあわせて独自の取材ペースを作ってください。その意味でも「サボること」「息を抜くこと」を忘れずに。昼間30分でも1時間でも眠れる場所を(クラブでも、自分のアパートでも)確保することです。また休日には涼しい所で、思いっきり眠ることが秋に疲れを持ち越さない方法です。僕は新人時代、夏の疲れと急激な酒量の増加で、11月に突然膵職(ママ)炎になって本当に往生しました。それからは、夏は徹底的に休むようにしています。自己管理=事故管理だと思ってください。

 こうした発想を平気でするようになったのは、三つの出来事と「空気」が影響している。