後輩の中には、私が脱帽する優秀な記者がいて、いまはNHK編成の最高幹部になっているが、彼は強制捜査の最中でも、検察幹部に電話をかけて「今どこをガサ(家宅捜索)してるんですか」「逮捕容疑は、①特背(特別背任)? ②背任? ③別の容疑ですか」と平然と聞き、また「①に決まってる!」との回答をつかんでいた。一事が万事そうだったわけではないが、記者クラブで見ている限り、「大胆な奴っちゃなぁ」と私を震撼(しんかん)させた。つまり『パブロフの犬』のように電話をかければ、相手が応じてしまう習慣をつけさせることを後輩の彼から学んだ。

 以後私も、取材先には「他社に夜回りしているところを見られるとまずいので、これからは電話にさせてください」と懇願した。顔が見えない分、声の抑揚で緊迫度をつかむ方法を体得した。その分移動せずに、取材先が帰ってきた頃を見計らって夜や朝に電話した。

NHKの上田良一会長(宮川浩和撮影)
 管理職になると、後輩たちに「サボる」ことを推奨した。渋谷の放送センター地下にある社会部の機材置き場にベッドを持ち込み、昼間でも寝に行った。後輩たちは、私の姿が見えないと「地下部屋だろう」と電話をしてきたし、彼らにベッドを取られると折り畳み式のビニールチェアを買ってきてそれでよく寝た。「よく寝る記者は、良い記者だ」という風潮を作りたかったからだ。

 これを許してくれたのが、司法キャップであり、社会部長であり、編集主幹であり、報道局長だった井手上伸一さんだった。だから風邪をひいている記者が、取材に行けないように、配車係に電話して、ハイヤーのストップをお願いしたり、「風邪で来るヤツは(他人に風邪をうつすから)傷害致死だ!」と怒鳴ったりして、局やクラブに来づらくしたものだ。

 さて長々とサボってばかりの生活を強調してしまったようだが、「サボる」ためには、批判されないように、仕事をするときは真剣、効率を考えて、工夫しながらよくやった。つまりやるべき時は集中してやる。ダラダラ続けない。「見切り千両」が口癖でもあった。手を抜くときは徹底してサボる、つまり「腹をくくる」ことだ。

 結論は、仕事に緩急をつける。キャップやデスク、管理職は率先して「サボり方」を指南する。私のモットー<がんばりすぎない。ちょっとがんばる>ことが、記者生活を健康で、有意義なものにするはずだ。