李相哲(龍谷大教授)

 年始の討論番組「朝まで生テレビ!元旦スペシャル」(テレビ朝日系)では、おかげさまで有意義な議論ができたと思います。「(尖閣が)侵略されたらどうするの」との問いに、お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんは「白旗を挙げて降参する」と話しました。

 では、「尖閣諸島をよこせと言ったら大丈夫だと言ったけど、じゃあ、沖縄をくださいと言ったらあげるんですか」という問いに、あなたは「(沖縄は)もともと中国から取ったんでしょう」と答えました。

 私は、村本さんの主張は、今の日本の多くの若者の考え方や感覚を代弁していると思いました。その主張は非難に値するものではなく、そのような考えもあって当然だと思います。毎日を平和で幸せに暮らす日本の若者にとって、このような考えを持っていることを誇りに思ってもいいくらいです。
ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏
ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏
 私は、20年以上、日本の大学で教えながら毎日若い日本人学生と接触していますから、彼ら、彼女らが何を考え、どんな感覚をもち、何を悩んでいるかがわかります。日本のような安定した国に暮らしていれば、毎日をどのように楽しく、幸せに暮らすかを考えればよいのです。悩みがあると言ってもサークルの人間関係とか、就職のことぐらいですね。

 いま世界で何が起こっているかを忘れて暮らしても別に悪いことでもないし、むしろ、関係なく暮らすほうがよいでしょう。

 それでも私は一応先生をやっているので、学生たちにたまに、重苦しい話もします。例えば、北朝鮮が核武装をしようとしたり、中国が尖閣諸島の領有権を主張したりしているが、どうすればよいのかと聞くと、ほぼ99%の学生は「戦争は絶対だめです」、「善き戦争(何を善しとするかの問題はとりあえずさておいて)があるとしても戦争よりは悪しき平和のほうがましだ」と答えるのです。おそらく、日本ではこのように教育されてきたでしょう。

 しかし、現実世界というのは、そう簡単ではないですね。つい最近の出来事ですが、自分の家の前の道路を勝手に封鎖してそこを通ろうとする人々から通行料を取ろうとした住人がいましたね。日本のメディアでも大きくとりあげましたが、その住人は、通行料を払おうとしない人に暴力まで振るいました。

 平和に慣れている日本人の多くは、この場合その家の前を避けて通りますね。そうすれば平和は保てますから。しかし、その住人の隣の家の人はどうでしょう。生活しにくいはずです。もしも隣の住人が、自分の家の道路まで占領しようとしたらどうすればよろしいでしょうか。日本は法治国家ですから、警察に助けを求めたり、法に訴えたりすることはできます。

 また、こんな場合はどうでしょう。村本さんがとても高価な腕時計をはめて街に出たところ強盗が時計を出せと威嚇(いかく)したとしましょう。こういうときも警察がいたら守ってくれるでしょう。

 しかし、国際社会には、大ざっぱに言えば「警察」のない世界です。国際社会はルールがあるようでない世界。国際連合という機関が一応ありますが、まとまりもよくない上、自分独自の警察や軍隊をもたない。最近では、多国籍軍(いろんな国から寄せ集めた軍部隊からなる)からなる「国連軍」を組織して紛争に介入することはありますが、すべてをカバーできるわけでもなく、力もありません。