彼らは、反発する相手を間違えている。しかし、彼らの倒錯した井上バッシングは、護憲派にとっては、自分たちの欺瞞を暴露する「井上達夫という邪魔な存在」のメッセージに対して国民の耳をふさいでくれる、ありがたい現象だろう。私をネット上でバッシングしている輩の中にはこの種の護憲派もいるかもしれない。村本のネット追従者たちが、国民がエリートに誘導されるのではなく、自分たちで主体的に憲法問題を考え解決する民主的討議実践を促進したいと本当に望んでいるのなら、彼らがたたくべき相手は、私ではなく、護憲派知識人や、村本のような「庶民のふりして庶民を愚民視する政冶漫才師」である。
お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワー・村本大輔=2014年7月2日、大阪市中央区の吉本興業本社(撮影・山下香)
お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワー・村本大輔=2014年7月2日、大阪市中央区の吉本興業本社(撮影・山下香)
 昨年末の『THE MANZAI』(フジテレビ系)でお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の漫才を初めて聴き、「これは面白い、この村本という男、なかなか才能がある」と思ったが、これからは村本の漫才を聴いても笑えなくなるだろう。残念至極である。

 村本問題を越えて、9条と安全保障問題に関する私見にも簡単に触れておく。私は右の改憲派と護憲派双方の欺瞞を批判してきたが、護憲を標榜(ひょうぼう)しながら、政治的ご都合主義で憲法9条を歪曲(わいきょく)蹂躙(じゅうりん)してきた護憲派は、立憲主義に対する裏切りという点で、より罪が深いことを指摘してきた。護憲派の学者・政治家たちが、いかなる詭弁で憲法を蹂躙し、国民をだましてきたか、この欺瞞を是正する方途が何かについては、テレビのニュースや討論番組でも、一般国民に訴えてきたが、所詮、これらの媒体では断片的な発言しかできない。私の議論を十分理解してもらうためには、一般市民に向けて書いた前掲の一連の拙著を読んでいただきたい。
 国民がエリートにばかにされ、誘導されないためには、テレビやネット上での「識者」や「タレント」の発言に短絡的に反応するのではなく、さまざまな立場の主張内容と論拠を十分理解した上で、批判的に検討し、自分の頭で熟慮する経験を積むことが必要だと私は考えている。

 学界や論壇の中で研究活動・言論活動をしてきた私が60歳を過ぎて、一般市民を名宛て人にした上記のような著作を刊行するようになったのは、国民が「統治の客体」ではなく「統治の主体」になるための政治的自己啓発を支援したいという思いからである。政界・官界・司法界のみならず言論界でも日本のエリートたちは欺瞞化し堕落しており、国民自身が統治の責任主体として自己を成熟させない限り、日本はまともな立憲民主主義国家になれないという危機感が根底にある。